第28回「まるごと包み込む」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

はい、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

先日、谷川俊太郎さんの話が新聞に載っていました。
北京で7年間自宅に軟禁されていた詩人の女性に送った谷川さんの詩が紹介されていました。
「言葉で慰めることも励ますことも出来ないから、僕は君を音楽でくるんでやりたい」というのが冒頭の言葉です。
その「音楽」という言葉には、谷川さんの特別な思いが込められています。「言葉や言語は世界を善・悪とか、うつくしい・みにくいという二項対立で捉えがちだが、音楽は世界を隔てることなく、まるごと包み込む。僕は、ずっと詩でそういう世界を作りたいと願ってきた」と、紹介されていました。「隔てることなく、まるごと包み込む」、東洋では、これを一如というのだと思います。
言葉というのは、ついつい「善と悪」で捉えてしまいがちです。絵本でも「良い絵本」という言い方を平気でします。「良い」があれば自動的に「悪い」がでてくるのは人間当たり前の心の動きです。
「好きな絵本」「好きになれない絵本」はあるでしょう。しかし「良い絵本」や「悪い絵本」と二つに分けて考えるのは、それこそ悪いクセです。
好き嫌いは他人に決めてもらわず自分で決めましょう。

戸田:

そうですね。

有川:

ことにヨーロッパでは、「肉体と精神」「神と悪魔」というふうに物ごとを二つにわけて考えるクセが伝統的にあります。音楽にはそれを融通無碍にしてしまう力があるのではないかと思います。
今朝もバッハのオルガン曲を聴いていたんですが「これがあったから、ヨーロッパの文明はここまできたんだろう。音楽が果たした役割は大きいなあ」と心が洗われる気持ちがしました。

戸田:

ええ。

有川:

谷川さんの『もこ もこもこ』という絵本があります。絵は元永定正さん。亡くなられましたが、抽象絵画の画家です。その絵本をみると、谷川さんの「音楽のように包み込みたい。僕は、ずっと詩でそういう世界を作りたいと願ってきた」という言葉がよくわかります。
絵本館にも音楽が聴こえてくるような絵本がいくつもあります。『うみのむこうは』『おどります』『ぶきゃぶきゃぶー』『はしれはしれ』など。


五味太郎『うみのむこうは』

戸田:

好きな絵本がいくつもあります。

有川:

誰でも大人になるにつれて意味や観念などが身につくと、善悪とか良し悪しでものごとを捉えがちになってしまう。けれど音楽や絵本には、そういったものを包み込む力があるのではないかと思います。音楽は世界共通です。そして300年も前のバッハの曲が今でも我々の心に沁みる。
絵本も、絵と文を通して人間の心を解き放つ力をもっている。絵本は絵と文を縦横に使えるものですから、意味のあり方や考え方を組み立て直すことができやすい。そこにこそ絵本の真骨頂があるのだと思います。

戸田:

確かに言葉が邪魔をしている、という場合もありますね。

有川:

そうです。観念が強くなると思い込みも強くなってしまうでしょう。そうなると人間、自分の考えを譲らなくなる。ところが、ある種の絵本は凝り固まった常識や思い込みを組み立て直す力をもっているんです。例えば『のでのでので』。普通は、こんな原因があった「ので」結果はこうなった、と使います。ところがこの絵本の「ので」は因果関係を無視します。というより絵本ですから無視することができます。「ので」の連続に何の違和感を感じません。

戸田:

なるほど。

有川:

谷川さんの「詩」という言葉を「絵本」におきかえて「あなたを音楽のように隔てることなく、まるごと包み込みたい。絵本館もずっと絵本でそういう世界を作りたいと願っています」と、いいたい。

戸田:

ええ。

有川:

97歳の型染め作家の柚木沙弥郎さんの映像をみていたら、「作られた作品を世の中に発表する基準はなんですか」という問いに「私がうれしくなっちゃったものだけですよ」と答えていました(笑)。

戸田:

いいですねえ(笑)。

有川:

すごくいいでしょう。
亡くなられた心理学者の河合隼雄さんも「人間が楽しくなる、おもしろくなるということは、思いの外の力を持っているんですよ」と、常々おっしゃっていました。子どものもつ「おもしろい」を多くの大人が大事にしてくれると、子どもはノビノビと生活しやすくなるでしょう。

戸田:

そうですね。

有川:

江戸まであった「うれしくなっちゃう」を「欧米に追いつけ追い越せ」の掛け声で、明治以降の教育がないがしろにしてしまった。つまり「おつ」とか「粋・いなせ」といった心持ちなど雲散霧消のありさま。だから、日大アメフト部のようなことになってしまう。「根性、根性」と言ってはばからず、勝つためには手段を選ばなくなる。品位のカケラもない。だんだん話に品がなくなってきましたね(笑)。

戸田:

大丈夫ですよ(笑)。今日は音楽と絵本のお話いただきました。そういったものが人を豊かにしてくれるんですよね。

有川:

「自分の心が動き出した、動いている」という実感。「うれしくなっちゃう」とは、そういうことですね。子どもたちがそういった実感をもって生活してほしいですね。絵本館の絵本が、多くの方にとってそんな絵本であってほしいと思っています。

戸田:

そうですね。ぜひ、またそんな絵本に出会わせてください。今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。

絵本館からの新刊をひとつご紹介します。
待ちに待った長谷川義史さんの『いいから いいから5』が、とうとう刊行されました。
ついに!やっと!今度こそ8年ぶりの新刊です。今度は宇宙人がやってきた。なんと、おじいちゃんが宇宙人に気に入られて…。「いいから いいから」が口ぐせのおじいちゃんが織りなす心あたたまるシリーズです。
私はこのシリーズ全部持っていますけれど、本当に楽しくって、心がほっこりします。長谷川義史さんからのメッセージをご紹介します。

こんどは ちきゅうじんのおじいちゃんの
ところへ うちゅうじんがやってきて、
「えっ、うちゅうじん!」って びっくりする
けどでも うちゅうじんからみたら
ちきゅうじんも うちゅうじんで
うちゅうじんと うちゅうじんで
ちきゅうじんのおじいちゃんは やっぱりいう
「いいから いいから」。
みんなが えがおになる
あんたファーストのあいことば
「いいから いいから」。

長谷川義史さんの新刊です。ぜひご注目ください。

(2018.7.10 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載していきます。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
うみのむこうは
五味太郎・作 自然と想像する力がわいてくる、こころがふるえる、そんな絵本です。
おどります
高畠純・作 気分はすっかりメケメケ気分!
ぶきゃぶきゃぶー
内田麟太郎・文/竹内通雅・絵 なにがなんだか分からないけど ぶきゃ ぶきゃ ぶー ブタおじさんのバスは はしります
はしれはしれ
きむらよしお・作 ライオンとラクダの気持ちが手にとるようにみえてくる。 絵本は、こんな表現もできるのか。
のでのでので
五味太郎・作 いきなり始まるこの絵本は、まさに絵本的。
いいからいいから5
長谷川義史・作 ついに!やっと!今度こそ...8年ぶりの「いいからいいから」です!
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