第27回「精神のアルバム」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

本棚のことを「精神のアルバム」と言った人がいます。人の家に伺って本棚を見ると、その人の心のありようがちょっとうかがえるということがありますね。

戸田:

ええ。

有川:

「ご自分で読んでおもしろかった本、気になって買った本がつまっている本棚というのは、言ってみれば“精神のアルバム”のようなものだ」と林望さんが書いています。
いい言葉だなあと思いました。林さんは「図書館で借りた本も気に入ったら、その本は購入することにしている」とのことです。
それを読んだときに思ったんですが、よくおかあさんやおばあさんが、お子さんやお孫さんのアルバム作りに精を出したりしますよね。

戸田:

ええ。

有川:

読んであげた絵本や本が本棚にあると、成長した時に「そういえばこの絵本が好きだったなあ」と、幼い頃の自分の気持ちを思い浮かべるのに恰好の場所、それが本棚ですね。それを林さんは「精神のアルバム」と言う。いい言葉です。みなさんも子どもの「精神のアルバム」を作ってみてはいかがでしょう。

戸田:

そうですね。

有川:

こんなことを出版社のおやじが言うと「なんだかなあ」とおっしゃる方もいるかもしれませんが(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

お子さんが図書館で借りて好きになった絵本を返す。
もちろんそれでいいんです。しかし、お子さんがすごく気に入った絵本なら買ってあげてほしい。のちに「これは◯◯ちゃんが、すごく気に入っていた絵本だったね」と話せば「そういえば、そうだったなあ」となるでしょう。ある意味「こころのアルバム」です。

戸田:

そうですよね。

有川:

こうして趣味に関することは、身銭をかけたほうが手は上がると思います。もちろん、図書館を利用しないようにと言っている意味では全くありません。

戸田:

はい。

有川:

お金をかけたのに「こんな本をなぜ買ってしまったんだろう」という失敗も、長い目でみると財産になっているんですね。本好きになるためには、自分で本を選ぶ。これがもっとも大事です。選ぶことが楽しくなればシメタもので、そうなると書店にいること自体、心が落ちついてくるものです。
ここに絵本館で作ったポスターがあります。見てください。

有川:

4番目がとても大事です。

戸田:

とてもよくわかります。私も、子どもたちにたくさんの本を読みました。当時の絵本もたくさんあります。だから有川さんのお話をうかがって「絵本って、本当に宝物だな」と思います。思い出のなかに大好きだった絵本が必ずありますよね。有川さんの心のアルバムには、なにがあるんでしょうか。

有川:

幼稚園や小学生の頃、母が読んでくれた『少年ケニア』とか、岩見重太郎、荒木又右衛門とか。母は時代物が好きだったんです。信長や秀吉とは、子どものときから親しい間柄でした。その影響でしょうか、歴史好きになりました。
僕が幼稚園か小学校1年生の頃に、母が義経の本を読んでくれたんです。最後に義経は死ぬ。僕はその時、初めて「そうか、人はいつか死んでしまうんだ」と気づきました。そして「いつか、おふくろと別れなければならない時がくるんだ」と思ったら、なんとも言えない気持ちになって涙ぐんだことを覚えています。

戸田:

そうでしたか。

有川:

女の人は、いるだけでいいですから(笑)。

戸田:

いるだけでいいんですか。それは若い頃の限定ではありませんか(笑)。

有川:

そんなことないですよ、年齢は問いません(笑)。
今年の始め、新聞の投句に「めでたさは 妻やわらかき お正月」というのがありました。いるだけで心おきなくなるという句です。やわらかい心をもった女性、女性だけでなく男性もそうですが、世の中には羨ましい人がいるなあと。でも、こんなことを直裁的にいうのは少し図々しい、もしかしたら事実ではなく願望の句かな(笑)。
そんなやわらかい心をもてるような、ユーモラスで笑える楽しい絵本があります。女性にも男性にも効果があると思います。正確には、あるといいなと思っています(笑)。

戸田:

そうですね!今日のお話もおもしろかったです。有川さん、ありがとうございました。

有川:

こちらこそありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
有川さんのお話は、時々どっちへ行くのかわからなくてドキドキしてしまうんですが、とってもいいお話を聞かせてくださいます。来月もとても楽しみにしています。
そして、みなさんももっともっと絵本に親しんでいただけたらと思います。
(2018.6.12 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
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