第21回「チャンピオン長新太」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

はい、よろしくお願いします。

戸田:

絵本館の絵本ガイド「絵本のちから」の中で、有川さんが「こんな絵本作家と出会いました」と言っているページが、私はとても興味深くて。

有川:

ありがとうございます。

戸田:

今日は長新太さんのお話をしていただけますか。

有川:

ナンセンス、ノンセンスというのかな。これはセンスがないということではなくて、センス、つまり英語では思慮・常識・分別からはなれるということでしょうか。そんな絵本の第一人者が長新太さんです。

戸田:

有川さんと長さんとの出会いは、いつ頃だったのですか。

有川:

絵本館を始めようと思ったときに、いろんな作家につぎつぎと電話をかけて会いに行ったんです。無謀な若者でした(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

40年も前のことです。いろんな作家に会って話しているうちに長新太さんの真価が浮き彫りになってきました。でも、多分日本中で長新太さんの凄さを分かっている人は今でもそんなに多くないのではないでしょうか。

戸田:

そうでしょうか。

有川:

なぜかというと、多くの大人は子どもたちに知識や常識などを絵本で与えたいと思っています。もちろん知識も常識も両方とも身につくといいでしょう。
ただ知識も常識もすぎると精神がだんだん固くなってしまう。ときどきほぐす必要がある。
ナンセンスはそんな精神の柔軟性・自由度に欠かすことができないものだとおもうのです。

戸田:

ええ。

有川:

養老孟司さんが『遺言』という本で「意識というのは人間にとって厄介な代物だ」と書いています。なぜ厄介なのかというと意識が強くなると思いも深く強くなってしまう。それを現代用語では自己中といいます。
なににしても悪いのは人生でも人類にとっても思い込みです。でもこれが強くでる。歴史をたずねてみるとよくわかります。

戸田:

頭を柔らかくしたいですね。柔軟にね。

有川:

ええ。それが小さな頃からセンス・「知識だ知識だ」とせきたてられ、本を読めば「感想を書け」などと言われている。感想は感想ですから、その人がどう思おうと他の人がとやかく言える義理はないわけです。
それなのに学校公認の感想・良い感想におしこめられる。感想は主観です。ところがその個人の主観が学校公認、みんなが認めた感想になると、感想が不動の力をもつ。主観と客観がゴッチャになるのですから頭が固くなるのは必然の成り行きです。思い込んだら百年目みたいな犯罪者もでてくる。

戸田:

(笑)。有川さんは、長新太さんの絵本を「意味はさっぱりわからないんだけど、なぜか気になるし、おもしろい」とおっしゃっています。

有川:

「意味はさっぱりわからないんだけど、なぜか気になる」とは「意味から離れてみるとなぜか気になるだけでなくおもしろくなる」ということです。大袈裟に言えばそんな境地にもなれます。そのセンス「意味」から離れることをナンセンスといっているのではないでしょうか。
そうなると見る目が変わりますね。絵本だけではなく物の見方もガラッと変わります。

戸田:

ええ、そうですね。


長新太『にんげんになったニクマンジュウ』

有川:

「絵本のちから」のなかで、福岡の司書の方の話を紹介しています。「長さんの絵本、なんだかさっぱりわからないけれど、子どもたちがあんまり喜ぶものだから、何度も何度も読んであげていたら、ある日、目からウロコが落ちたようになり、その日から長さんの絵本を見る目が変わりました」と。それを、ぜひみなさんにも経験していただけないものかと思っています。

戸田:

そうですね。

有川:

そうなれば、絵本は子どもだけでなく、われわれ大人にとっても魅力的なジャンルだということに気づくことでしょう。
そういう力を長さんは与えてくれる気がします。

戸田:

なによりも子どもたちが、長さんの絵本が大好きというのが、答えですよね。

有川:

そうなんです。子どもがよろこぶのに、お母さんはよろこばない。そのチャンピオンが長新太です。
僕が赤ちゃんをみて思うのは、「赤ちゃんはキャパが広い」ということです。赤ちゃんは知らないことだらけのなかで生きていますから、知らないことに対してビックリしません平ちゃらです。ですからナンセンス絵本は子どもたちにとってごく日常の現象なのでしょう。
われわれ大人は「知らなきゃ、知らなきゃ」という意識がはたらいている。ところが何かを知ったために何かあるものを失っているのかもしれません。そうおもうと人間謙虚に生きられる気がします。

戸田:

ほんとうにそうですね。
有川さんのお話をお伺いして、長さんの絵本を開くときに、また見方が変わるかもしれませんし、もっと好きになりました。

有川:

それは一番うれしいです。

戸田:

今日も楽しいお話をありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。

戸田:

ありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
絵本館からは長新太さんのナンセンス絵本の傑作がたくさん出ています。『にんげんになったニクマンジュウ』『おじさんあそびましょ』『なにをたべたかわかる?』『わりとけっこう』『ゴリラのビックリばこ』
ぜひ、絵本館HPもチェックしてみてくださいね。
(2017.12.12 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ガイド「絵本のちから」
2018年に40周年を迎えた絵本館が、これまでにつくってきた絵本の制作秘話や楽しみかたなどをご紹介しています。
にんげんになったニクマンジュウ
「そうだんがあるんだけど」といってニクマンがやってきた。
おじさん あそびましょ
長新太・作スローフードならぬ、スローブック。
なにをたべたかわかる?
長新太・作ねこがつりあげたのは、ちかづく動物をぺろりと飲み込んでしまうさかなだった!
わりとけっこう
中川ひろたか・文/長新太・絵けっこう、この絵本くせになるね。
ゴリラのビックリばこ
長新太・作いろんなビックリばこを作ってはいたずらしているゴリラのおはなし。
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