第19回「絵本のちから」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

絵本館から出たばかりのガイドブック「絵本のちから」を早速読ませていただいて、有川さんの思いが伝わってきました。
絵本館が絵本専門出版社として歩み始めて、もうすぐ40年になるんですね。まだ20代の若い有川さんが「絵本を」と思ったきっかけは何だったのですか。

有川:

動機はまったく不純なんです(笑)。
子どもの頃から本も絵も好きだったんですが、たまたま鈴木鎮一さんというバイオリンの先生と親しくなりまして。

戸田:

はい。

有川:

鈴木先生のつながりで幼稚園の園長先生方とも知り合いになりました。「おもしろい絵本を作ることが出来たら買ってあげるよ」という話になり、「やってみます」という感じです。
多くの作家に会いに行きました。そこで心をうたれたのが五味太郎さん。それが決定的でした。

戸田:

そうだったんですね。

有川:

その頃、五味さんもヒマだったんです(笑)。昼の2時に伺って翌日の朝の5時までいましたから。五味さんが数えたら、1年で80回以上行ったそうです。だから、年間1200時間以上になります。それを2〜3年続けました(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

五味さんが32歳で、僕は29歳でした。
表現とはなんであるか、物事を人に伝えるとは、出版・パブリッシュとはなんであるかとか、たった3歳違いの五味さんは、よくまあここまでと思うほど全部頭の中に入っていた。
五味さんのご両親もとても話好きで、小さい頃から五味さんはご両親が話していることをよく聞いて、耳学問をしていたんですね。

戸田:

子どもが育つ環境って、すごく影響があるんだなと思います。

有川:

そうですね。

戸田:

どんな絵本と出会うかというのも。一生の宝物になるような絵本もあったりしますものね。

有川:

ええ、あるでしょうね。絵本は幼いときの記憶ですから、記憶に強く刻印されてはいないかもしれません。ただ記憶の深いところにとどまっているかもしれません。詩や俳句との出会いなどもそうです。
「雨ニモマケズ風ニモマケズ」とか、「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」とか、中学や高校の時に口ずさんでいた詩や俳句をいつまでも覚えているということがありますね。

戸田:

ずっと覚えていますよね。
絵本館は「おもしろい、ユーモアがある、余裕がある絵本」が大好きということですよね。

有川:

ユーモラスで余裕があって、おもしろいことを言う大人がいてくれたほうが、子どもにとってもいいでしょう。子どもだけでなく、家族にとってもいいでしょう。

戸田:

そうですよね(笑)。
有川さん、私は、ガイドブック巻末リストにある「終わったのにまた始まる」絵本というのが、ちょっと気になりました。

終わったのにまた始まる

有川:

おもしろいでしょう。絵本は24ページ、28ページ、32ページとか形式的には短いものですから、ちゃんとした結論で終わるより、「このあと、どうなるのかな」と思ったほうが楽しいし、想像力も広がるのではないか、と思うんです。
だからここでご紹介している、たとえば『ぶたのたね』『うみのむこうは』『いいから いいから4』『だるまなんだ』『はしれ はしれ』などの絵本をぜひ読んでいただいて、「なるほど、有川が言っていることは、そういうことか」と実感していただければうれしいです。

戸田:

そうですね。
この「絵本のちから」の中には、有川さんが出会ったたくさんの絵本作家さんがいらっしゃいます。とても興味深いお話をまたの機会に聞かせていただけますか。

有川:

はい。ぜひとも。

戸田:

今日もありがとうございました。

有川:

はい、こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
絵本館には大人も楽しめる絵本がたくさんあります。
有川さんがご紹介くださった「終わったのにまた始まる」の他にも「奇想天外なお話」「絵本でしか行けない場所」「気持ち良いコミュニケーション」「ことばあそび・かず・リズムの快感」「絵本はこんな表現もできる!」「ゆっくり、のんびり心があたたかくなる絵本」「意味はわからないけど、なぜか気になるおもしろい絵本」「くりかえす快感」など、子どもから大人まで楽しめる絵本がたくさんあります。

※現在配布しているガイド「絵本のちから」は改定版です。上記の内容は下のPDF(「絵本のちから」おとなにも広がる絵本の世界)でご覧いただけます。

(2017.10.10 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ガイド「絵本のちから」
2018年に40周年を迎えた絵本館が、これまでにつくってきた絵本の制作秘話や楽しみかたなどをご紹介しています。
ぶたのたね
佐々木マキ・作きつね博士から「ぶたのたね」をもらったおおかみは・・・。
うみのむこうは
五味太郎・作自然と想像する力がわいてくる、こころがふるえる、そんな絵本です。
いいからいいから4
長谷川義史・作こんどは、にんじゃがやってきた!
だるまなんだ
おおなり修司・文/丸山誠司・絵 だれにも言ってはいけない爆笑のラスト。
はしれはしれ
きむらよしお・作ライオンとラクダの気持ちが手にとるようにみえてくる。絵本は、こんな表現もできるのか。
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