- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話ですか。
- 有川:
- よくあることなんですが、考えてみると「それは違うんじゃない」「もう古くて使い物にならないのでは」ということが結構あると思うんです。それでも今までずっとやってきたからと、変わらずただやり続けている。
困ったものです。変わらない。 - 戸田:
- ええ。
- 有川:
- われわれの本のことでも、子どもが学ぶうえで読書は有効だから、親も先生も「子どもが本を好きになる方向に」向かえばいいと思っているにもかかわらず、それとは反対に「子どもが本をいやがる方向へ」なんの反省もなく何十年もずっと続けていることがある。
たとえて言えば感想文。読書感想文などを書かせて本好きになった子どもがいたら、お目にかかってみたいものです。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 全国規模で60年以上やっていますからね。本を読んで感想文、社会科見学に行って感想文。なににつけ、文を書かせたがる大人。
- 戸田:
- 確かに。私も子どもの頃、一番あとまわしにしてしまう夏休みの宿題でした(笑)。難しいですよねえ。
- 有川:
- 難しいです。というのも読書感想文は言ってみれば書評です。いっぱしの作家・文章家でも書評は難しい。そんなことを子どもに課するとは、気がしれません。感想だったら「おもしろかった」あるいは「おもしろくない」、だけでもいいわけです。大事なのは、読む楽しみです。読む楽しみを獲得するか否か、その子の人生にとってそこがなによりも大切です。
なんの感想もないのに何百字も書かせられる。そうなると無意識のうちに平気でウソも書くことになるでしょう。その点、僕なんて夏休みになるとすぐ鹿児島に帰ってしまう。祖父母は宿題のことなど何も言わないので遊んでばかり、宿題はなにもやりませんでした。夏休みの宿題は、僕が帰ってくることを心待ちしてくれていた友だちが書いたものを丸写ししていました。工作の材料まで準備してくれていたんです。いい友だちに恵まれていました。ただし、読者感想文は書いたためしはありません。だからウソつきにはならずにすみました(笑)。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 話はかわりますが、先日、「カルタの作り方」を話に来てくださいとのことで、横浜の小学校に行ってきたんです。
「僕は作家ではありませんし、カルタを作ったことは一度もありませんから」とお断りをしたんですが、先生が「なんでもいいからカルタのお話をしてください」と言うんです。ということで伺って、まず自己紹介かわりに最新刊の『ねこねむる』を読みました。 - 戸田:
- いいですね。
- 有川:
- 「おおかみ おきる」「うま うたう」「たぬき たすける」「なまけもの ならぶ」「まんどりる まざる」……と、読んでいくうちに「あ、これはカルタになる」と思ったんです。
- 戸田:
- ほんと、なりますね!
- 有川:
- 「おきるのは」が読み札、絵札は「おおかみ」でカルタになると気づきました。子どもたちに「こんなふうに気楽に考えると、すぐにカルタはできるね」と話しました。
- おもしろくするために、原則をひとつ決める。
『ことばのえほんあいうえお・かるた』という、五味太郎さんの素晴らしいカルタがあるんです。このカルタは「2番目にどうぶつがでてくる」という原則がある。
「あくび あざらし あそびにあきた」「いねむり いのしし いすからおちた」「うちゅう うさぎの うんどうかい」というふうに。 - おもしろくするために、原則をひとつ決める。
- 戸田:
- なるほど。
- 有川:
- そこで、子どもたちに「あ」で始まるどうぶつと、「あそび」「あきた」など「あ」のつく言葉をあげてもらい、それに自由にというか勝手気ままに絵を描いてみたら、と提案しました。
- 戸田:
- 楽しそうですね。
- 有川:
- 絵のいいところは、融通無碍(ゆうづうむげ)ですから。たとえば「えんぴつ えびの えかきさん」という文にどんな絵を描くだろうか、ということです。五味さんは、えんぴつの形をしたえびの絵描きさんを描いています。
- 戸田:
- わあ、すごい。
- 有川:
- 五味さんは「どんなものでも絵に描ける。描けないものがあるとしたら、実(じつ)のないものだと思っていい」と言っています。
「幼い子どもたちはわからないことが多いから、わかるようにしてあげよう」と大人は考えがちですが、なににもまして大事なのは「わかる過程」を楽しむことだと思います。多くの人は「人間は我慢して一生懸命勉強すれば、なんでもわかるようになる」と思っているかもしれませんが、そうではないでしょう。
先日、養老孟司さんの『ものがわかるということ』という本を読んでいたら、「85歳になって振り返ってみると、結局はわからないことだらけだなあ」というようなこと
が書いてありました。あの博学、碩学の養老さん85歳の感慨です。 - 戸田:
- そうですか。養老先生は『バカの壁』で「どんなに話しても分かりあえない」と。それはあるなあと、思いますものねえ。
- 有川:
- そうそう。だから最初から人間は分かりあえないと思っていれば、夫婦も親兄弟、友人もいい関係が築けるのかもしれません。人生半分は諦めから始めれば、違ったものが見えてくるかもしれません。偉そうに言えば、諦念の哲学かな。まあ、実のところ自分もそう簡単にわりきれていないので自戒をこめての発言です。と、いうことで今日の話の終わりとしたいと思います(笑)。
- 戸田:
- (笑)。今日もとても価値あるお話を聞かせていただきました。有川さん、楽しかったです。今日もありがとうございました。
- 有川:
- はい、どうもどうも(笑)。ありがとうございました。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんでした。
有川さん初めてのご出演が2016年の4月でしたから、来月で丸7年になります。月に一度、楽しいお話をしてくださっています。その内容が絵本館HPの「編集長の直球コラム」で連載されています。私も楽しく読ませていただいています。
ラジオ版「絵本の力」。第81回は『春の夜や』。福山の文豪井伏鱒二さんのお話もしてくださっていますよ。ぜひ読んでみてください。
(2023.03.14 放送)
ねこねむる
楓真知子・作 いきいきとした生きものたち、カエデマワールド 第二弾です!
ことばのえほん あいうえお・かるた
五味太郎・作 リズミカルで一番人気のかるたです。