第79回「知性は芽生える」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

「知性」というものは、どうすれば身につくものなのか。それとも、何か好きなことを続けているうちに、自然と知性が身につくということがあるのか。

戸田:

ええ。

有川:

最近、英語の辞書をみていたら、おもしろいと思ったことがありました。英語で「lect」という語があって「選ぶ」という語幹だそうです。この前に「se」を付けると「select」別に選び出す→選ぶ、「col」を付けると「collect」先に選ぶ→集める「collector」ですね。「e」を付けると「elect」選び出す→選挙する。するとネグレクト「neglect」はどうか。「neg」は「negative」と同じ「否定」という意味なので「選ぶことをしない→怠る」となるそうです。そして、更に興味深かったのは、「intellect」です。「多くのもののなかから選び出す力」だそうです。そして「選び出す力→知性」だとのこと。

戸田:

ああ、なるほど。

有川:

選び出す力が知性を生み出す。いいですね。
旧統一教会の報道をみていると、「選ぶ」ことを拒否した人々、あるいは「選ぶこと」を停止した人々、その状態を盲信というのでしょう。つまり知性の否定ということですね。

戸田:

ええ。

有川:

子どもにとって一番いい選択は、自然のなかで遊ぶことでしょう。だけど「どの絵本が好きか」と自分で選ぶのもかなりいいのではないでしょうか。
子どもたちが「自分はどの絵本が好きかな」と選ぶ。その様子をみている大人たちが、子どもを「そうか、きみはこういう絵本が好きなのか、気に入ったのか」と、見てあげる。そんなことを繰り返すうちに、自然と選び出す力が身につく。つまり、そこに知性というものも芽生えてくるのではないでしょうか。

戸田:

そうですね。

有川:

このことは京都大学の先生だった桑原武夫さんの本にも書いてあるんです。「選択ということは、そのこと自体が知的行為である」という文章がありました。

戸田:

まさに、有川さんが今おっしゃったことですね。

有川:

桑原さんの『論語』という本の中に書かれているのです。英語でも同じように考えているんだと思い、うれしくなりました。

戸田:

ほんとですね。

有川:

選ぶことが知性につながる。このことを文科省や学校の先生だけでなく、多くの大人たちに考え直してもらいたいものです。教育のありかたが変わる気がします。

戸田:

そうですね。

有川:

「よい絵本をあたえる」のではなく、子どもが絵本を自分で選ぶ。そのことがとても大切です。本を選ぶ、そのこと自体が楽しくなれば、その人は子どもでも大人でも「本好き」ということです。そう言っていいのではないでしょうか。

戸田:

ええ。

有川:

前回もお話しましたが、想像するということは「他を思いやる力」と辞書にありました。子どもたちにむかって「人のことは、よく思わなくてはいけませんよ。やさしい心をもちましょう」と言ったりします。そういったメッセージ色が強い絵本はよくあります。ところが、メッセージが前面に出たのでは、自分のなかに想像する力は生まれてこない。つまり実感が伴わないので、子どもは受け身になるばかり。何も伝わりません。メッセージばかり聞く生活になってしまうと、頭では分かっていても実感が伴わないので、人間が次第にうすぼんやりした存在になっていくのではないでしょうか。
想像といえば、高畠純さんに『おとうさんのえほん』という絵本があります。

戸田:

はい。


高畠純『おとうさんのえほん』

有川:

4ページごとにひとつのお話になっているオムニバス絵本です。最初はゴリラのおとうさん、ワニのおとうさん、ゾウのおとうさんとか。最後はライオンのおとうさんです。お父さんと子どもの気持ちがよくみえてくる、そんな仕掛けになっている絵本です。これも想像する力を生みだす絵本になっています。

戸田:

ええ。

有川:

高畠さんがイギリスに行ったとき、イギリス人の小学生たちに『おとうさんのえほん』を読んだら、拍手喝采ですごい反応だったそうです。想像するなかで自分自身の実感に響くものがあったんでしょうね。

戸田:

そうですね!

有川:

漫画やアニメだけでなく、日本の絵本も世界の最先端を行っているのではないかと思います。

戸田:

ええ。

有川:

今まで「想像する」絵本は、ほとんど問題にされてこなかった。話題にもなってこなかった。そう考えると、この「想像をうながす絵本」というジャンルは、これからの絵本にとって大きな方向を示しているのではないでしょうか。そのうえ、絵本で想像する習慣が身につけば、絵のない活字だけの本、つまり読書への入口になるのではないでしょうか。絵本館の絵本の中には、そうした想像がわきおこる絵本がいくつもあります。
高畠純さんの『おとうさんのえほん』だけでなく、五味太郎さんの『うみのむこうは』、きむらよしおさんの『はしれ はしれ』、高畠那生さんの『みて!』、内田麟太郎さんと高畠純さんの『そうなのよ』、それから何回も言っていますが、おおなり修司さん、丸山誠司さんの『ふんがふんが』です。

戸田:

ホントによく『ふんがふんが』考えられましたね、おおなりさん!(笑)

有川:

おおなりさん、エライ!(笑)リズミカルでユーモラスだけでもすばらしいのに、言葉はほぼ「ふんがふんが」なので読む人の読み方でいろいろな表情が生まれてきます。
絵本ですから楽しむのが一番でしょう。愉しんでいたら知らないうちに自然と他を思う力も身についていた。そんな想像力を刺激する絵本が多くはありませんが、あると思います。

戸田:

そうですね。

有川:

絵本館の絵本だけではなく、自然と想像力がわきおこって、選ぶ力、知性が身につく。そういった絵本をザッと並べてみたら、どんなリストができるのかなあと思います。たとえば『もこ もこもこ』など。

戸田:

そうですね、そんなふうに見てみるのもいいですよね。

有川:

書店さんや図書館の方々が、そんなリスト作成にトライしてくださると、うれしいですね。

戸田:

確かに!
有川さん、今日もいいお話でした。ありがとうございま
した。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。

待ちに待ったおおなり修司さんと丸山誠司さんの『ふんが ふんが』。本当におもしろいです!改めてご紹介させていただきます。
有川さんからのメッセージです。

言葉は、“ふんがふんが”だけなのに、ストーリーがみえてくる。絵本から想像力が生まれ出てくる。そんな絵本になっていると思います。こんな絵本を出版したいと思っていました。子どもたちに読んであげるのに最適の絵本ではないでしょうか。

そして、おおなり修司さんからのメッセージです。

最初から最後まで、一つの言葉で表現する絵本を考えていたら、こんなおかしなお話ができあがりました。
なにしろ ふ ん が しかありませんので、想像力を爆発させて自由に読んでみてください。
スカッと楽しい気持ちになってもらえたら嬉しいです!
今回の丸山さんの絵、ほのぼのとしたテイストのなかにおかしみが溢れていておみごとです!

そして、丸山誠司さんからのメッセージです。

「ふんが」しか書かれていない原稿に、これはやられたー!ふんがー!と大興奮。「ふんが」しか言ってないけど、どんどん絵は浮かんでくる面白さ。ふんがー!と一気に絵が完成したのでした。日によって違う「ふんが」。読む人によって変わる「ふんが」。なんだか飽きない「ふんが」。
ふんがワールドは無限の楽しさです。
今回、ふんがワールドにいざなわれ、絵本では自分史上初めての描き方で絵を描きました。そこら辺りも楽しんでもらえたら嬉しふんがー!です

おおなり修司さんと丸山誠司さんの『ふんがふんが』。絵本館から大好評発売中です。ぜひ、お手にとってみてくださいね。
(2022.11.08 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。
おとうさんのえほん
高畠純・作いろんな動物のおとうさんが登場!
うみのむこうは
五味太郎・作自然と想像する力がわいてくる、こころがふるえる、そんな絵本です。
はしれはしれ
きむらよしお・作ライオンとラクダの気持ちが手にとるようにみえてくる。絵本は、こんな表現もできるのか。
みて!
高畠那生・作みて!このダイナミックなあっけらかんさ。
そうなのよ
内田麟太郎・文/高畠純・絵ナンセンスの力で、頭の中をやわらかくほぐしてください。
ふんがふんが
おおなり修司・文/丸山誠司・絵「ふんが」の3文字のみで語られるゴリラパパの奮闘記。
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