第72回「考える余白を準備する」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

先日、佐伯夕利子さんという方にインタビューしてきました。佐伯さんは、サッカー日本代表の久保建英選手も所属したスペインのビジャレアルというサッカーチームのコーチでもあり、この3月までJリーグの理事も務められていました。
前にお話した『教えないスキル』という本を書いていらっしゃる方です。とてもユニークな指導法を実践しています。

戸田:

そうなんですね。

有川:

ビジャレアルにはコーチが120人もいるそうなんです。そのコーチのみなさんが、頭や胸にカメラとマイクを付けて指導しているそうです。その様子を他のコーチが、またカメラで撮る。すると自分たちがどんなことを言ったりやったりしているか、よくわかるそうなんです。

戸田:

なるほど。

有川:

「なぜ選手をこんなに叱ってばかりいるんだろう。これでは進歩はおぼつかない」と実感したそうです。カメラとマイクのおかげで、自分自身を俯瞰してみることができるようになったそうです。これは大きな成果ですね。
「考えてみると、いままでの指導はコーチングとは、とても言えなかった」と気づいたそうです。学校や職場でもカメラやマイクをつけてやってみたらすごいことになるでしょうね。職場も学校も変わること間違いありません。家庭でもやったらどんなことになるでしょうか。
少しこわい気もしますが(笑)。

戸田:

そうですね(笑)。

有川:

コーチは、選手に“考えるクセ”をつけることに重きを置くべきで、そのためには“考える余白”をつくってあげることが大事だと気づいたそうです。
“考える余白”というのは、いい言葉です。コーチや先生に限らず大人は、子どもに余白というものを準備することに心をくだくべきではないでしょうか。
実はこの余白、これは絵本にも相通じることなんです。

戸田:

そうなんですね。

有川:

昔も今も「子どもになんでもかんでも教え込もう」と考える絵本が多いのが実情です。“考える余白をもった絵本”というのが本当に少ない。

戸田:

ええ。

有川:

「一方的なコーチングはせずに、“問い”をつくることに心をくだく。選手たちが“学びたい”と自然に意欲がわくような環境を整備する」。これはサッカーだけでなく、絵本でも同じです。そこが肝心要なところです。なにごとも早手回しに教えていては、考える子どもが育つわけがありません。
余白といえばつい先だって、おおなり修司さんの文、絵はきむらよしおさんで『ヘイ!タクシー』という絵本が出来上がりました。

戸田:

はい!

おおなり修司・文/きむらよしお・絵『ヘイ!タクシー』
有川:

だいたい『ヘイ!タクシー』というのは、ちいさな子どもが読む絵本のタイトルとしてはふさわしくないと思われがちです(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

ふさわしくないと言えば、40年以上前に『ピースランド』という絵本を出したんです。ピースランドは、当然英語ですから「子どもの絵本のタイトルとしてふさわしくない」というのが一般的な考えでした。

戸田:

ええ。

有川:

だから、業界からは相手にされませんでした。ところが『ピースランド』は、おおらかでのびのびとした高畠純さんのおだやかな味がよく出ています。そういったところを子どもたちは感じとったんですね。
心配は、まったく杞憂でした。

戸田:

そうですよね。

有川:

この『ヘイ!タクシー』も、のびのびとしたいい話です。おおなりさんの発想といい、きむらよしおさんの絵も素晴らしい。絵を見るだけでなく、自然と絵を読んでみたくなる。そんなユーモラスな場面がたくさんあります。最後は、空をとぶタクシーがでてきたり、めちゃくちゃなんですけど絵本ならではの楽しさが満載です(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

作家が、「『ヘイ!タクシー』というタイトルでいきたいな」と思っても、「子どもには向かないタイトルだ」とストップをかける人がいるのが、この業界の常です。
高畠純さんが「絵本館の絵本の特徴は、ユーモアがある絵本が多いだけではなく、のびのびとした作家性が高い作品が圧倒的に多い」と言ってくれたことがあります。これは僕にとって、ちょっとした誇りです。

戸田:

確かに。

有川:

絵本について僕は何も知らずに出版を始めたものですから、作家に対して「それ、いいですね」と、「いいですね、おじさん」をやっていたら、この「いいですね、おじさん」が僕の流儀になっていました(笑)。

戸田:

「いいですね、おじさん」、いいですね!(笑)。

有川:

子どもたちは、いろいろな経験をして育っていきますでしょう。思いもよらないことが次々に起こってくるのが人生です。子どもたちも、みんな想定外のごちゃごちゃの中で育っていくわけです。予定通りの人生なんて、考えてみると「つまらない」と思いませんか。73歳になった今でも想定外は日常的に起こります。
想定外を楽しんでいる『ヘイ!タクシー』のおじさん、タイトルを「きもちよかったな〜」にしたくなるくらい、そのひょうひょうとした人柄がうらやましい。あこがれです。

戸田:

(笑)。

有川:

自分で言うとなんですけれど(笑)、楽しい絵本であることは請け合いますから、みなさんぜひ手にとってみてください。

戸田:

はーい。なんといっても福山出身の絵本作家、おおなり修司さんの最新刊ですから、ご注目いただきたいと思います!

有川:

どうぞよろしくお願いします。

戸田:

有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。
『ヘイ!タクシー』は福山出身の絵本作家、おおなり修司さんの最新刊です。ぜひお手にとってみてください。

おおなり修司さんのコメントです。

タクシーのお話を考えたいな〜と思っていたら、こんなお話ができあがりました。
“実はさ、この前こんなおかしなことがあってさ〜”なんて調子で、声に出して読んでもらえると嬉しいです。そして、それを聞いている人も一緒に楽しんでもらえるとさらに嬉しいです!
きむらさんの遊び心あふれる絵も是非すみずみまで楽しんでください!!

そして、きむらよしおさんのコメントです。

私は、たまにしかタクシーに乗らないのですが、こんなタクシーに出会ったことはありません。でも、こんな変な動物タクシーで、こんなけったいな街を、走ったり飛んだりしたら楽しいと思います。
「ヘイ!タクシー」と手をあげているおじさんの気持ちはどうなのでしょう。絵をえがいている間中、このおじさんの名前はなんなのか、ずっと考えていました。自分だけの楽しい素敵な名前を考えて読んでみてください。

あの『福助はみた』第12回ようちえん絵本大賞受賞のおおなり修司×きむらよしおコンビの最新絵本です。ぜひ、絵本館HPをチェックしてくださいね。
(2022.4.12 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ヘイ!タクシー
おおなり修司・文/きむらよしお・絵「ヘイ!タクシー」ってタクシーとめたら、あら不思議!
ピースランド
高畠純・作のんびりするのって、とても大切です。
「福助はみた」が第12回ようちえん絵本大賞を受賞
おおなりさんときむらさんから受賞コメントが届きました!
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