第52回「活躍できる絵本」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

絵本を見るとき、主に文字のほうから見ていく人、絵のほうからみる人、二つのタイプがいると思うんです。
文字や言葉を中心に考える人は、「しっかりしたストーリーがあって、その文章に説明的な絵が付いている」、それを絵本だと思ってきた。僕も昔、そう思っていました。
いつの時代も大人は、子どもの文字の習得ということが頭にある。学制が始まった明治以降「言葉の説明をするために絵はとても役に立った」し、絵もその役割を充分に果たしてきた。なにしろ言葉や文字の習得が主ですから文が中心、絵本もその方向に行くのが当たり前です。

戸田:

ええ。

有川:

今度は、絵のほうから考えてみましょう。人間は、たくさんの情報を目から取り入れている。
目からの情報は、毎日どんどん入ってくる。この状態に慣れるあまり、人間の思考にとって目が重要な働きをしていることをつい忘れてしまう。思考にとって大事な要素は、言葉・文字だと思ってきた。ところが考えるためには、見ることがとても重要な要素をもっているんです。
そこで、絵本と絵の関係を考えてみます。
たとえば絵はあるけれど文字のない絵本があります。と、いうことは文字がなくても絵本は成り立つことができる。また文字はあるにはあるが「もこもこ」「にゅー」「すとん」といった擬態語や擬態語だけの絵本、当然意味はくみとれない、それでも絵本になる。なぜか、それは子どもも大人も絵を見るだけでなく、絵を読んでいるから。省略されている部分に想像という灯(あかり)をともしているからです。それも無意識に。

戸田:

なるほど!

有川:

と、いうことは「絵本は、文字がなく絵だけでもそれなりの表現ができるジャンル」というわけです。読者は文字に頼らずとも、絵の流れを読むことで絵本を楽しむことができる。となると、作者は表現を絵の流れに託し、読者にある種の示唆を与えることもできる。そう考えると「文章に挿絵」といった旧来の絵本にはない、まったく新しいスタイルの絵本の出現ということになります。今までにないこの新しいタイプの絵本を切りひらいてきたのは、絵描きと詩人たちです。
『もこ もこもこ』『ごろごろにゃーん』『のでのでので』『ぶきゃぶきゃぶー』など、今までの文字中心の絵本では考えることができなかった全く違うスタイルの絵本が生まれてきたわけです。読者も作者から与えられたヒントに触発され、自分なりの考えを組み立てて創りだす。そんな絵本が生まれてきた。作者と読者がフィフティ・フィフティの関係、そんな絵本の登場です。
そういった絵本を積極的に作ってきた作家が、長新太さん、谷川俊太郎さん、元永定正さん、井上洋介さん、五味太郎さん、佐々木マキさん、内田麟太郎さん、高畠純さん、荒井良二さんなど、たくさんの作家が日本にはいます。

戸田:

そうですね。


五味太郎『のでのでので』

有川:

あまり知られていないのですが、この新しいスタイルの絵本は、子どもにかなり人気です。子どもも作家もフィフティ・フィフティの関係ですから当然といえば当然です。しかし大人の多くは「こんな絵本は子どもには分かりにくい、無理だ」と考えてしまいがち。そのため、この新しいタイプの絵本は子どもの手にはなかなか届きません。読書は、少し背伸びするぐらいがちょうどいいのに、残念です(笑)。
文章の「余白を読む」という言い方があります。絵本にも「余白を読む」はあります。絵本に余白があるだけではなく、その余白を読む、そのこと自体がおもしろいことなのです。そこに気が付くと、文章だけでなく絵本の味わいも深くなります。

戸田:

なるほど。

有川:

僕は「絵をどう読むか」ということは、人生においてもかなり大切だと思うんです。人生は言ってみれば小さな判断・決断の連続です。人や周りの様子を見ながら状況を読み、その読みとりのなかで次第に能力が高まり自分のなかに組み込まれていく。それを人の成長というのではないでしょうか。

戸田:

そうですね。

有川:

あまり力まず自然体でよく見る。それもいろんな角度から見ることができたら、ものごとを考えるということにつながっていくのではないでしょうか。考えることの第一歩は見ることですが、見るだけではなく、五感を十分に働かせることも大事です。
絵本で「ものを見る癖、ものを見る楽しさ、ものごとを読みとる習慣」を子どもたちが身につけてくれるとうれしいですね。
そう考えると絵本の役割に、今までとは違った方向から光が射してくるのではないかと思います。

戸田:

そうなるとうれしいですね。

有川:

そして、おかあさんたちにお話したいことがもうひとつ。絵本に対する考えはいろいろありますが、なにより大切なことは子どもが喜ぶか、否かです。なぜ、子どもが喜ぶことが大事なのかというと、絵本を見て「喜んでいる」ということは、その子どもの内部(なか)にある、まだ見えていない何かが、おもてに現れている、そう考えていいと思うんです。

戸田:

そうですね!

有川:

読んであげても喜ばない絵本は、読まなくてもいいと思います。その子に合っていないのですから。
「絵本を山のように読んであげたのに、うちの子少しも本好きにならなかった」、そういう子どもはいくらもいます。子どものおもしろい「興味や関心」を大人は無視してはいけません。子どもの心が動いているかどうか、が大事なのですから(笑)。

戸田:

私は、絵本を見ている時の子どもの表情が大好きです。一生懸命見てくれますね。「何を感じているのかなあ」って。子どもの表情をじっくり見るというのも、大事ですね。

有川:

まったくそうです。「見る喜び」というか「見ている喜び」と言ったらいいのでしょうか。絵本は、喜びのためにある。そんなことに貢献できる格好のジャンルが絵本ではないでしょうか。それに近づければうれしい。そんな思いで絵本を作っております。

戸田:

いいですねえ。本当に素敵なお仕事をしていると
思います。有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。

絵本館からの新刊情報をご紹介いたします。
楓真知子(かえでまちこ)さん絵本デビュー作品『たびにでた』。


楓真知子『たびにでた』

あさがきたから たびにでた
かねがなったから たびにでた
はながさいたから たびにでた

キツネ、鳥、ウサギ、ゾウ、カメ…
それぞれの思いを胸に抱いて動物たちが旅にでます
向かった先には・・・!

鮮やかな色、ダイナミックなタッチで描かれるカエデマワールドをお楽しみください。
楓真知子さんの絵、いいですね。私、とっても好きです。ぜひ、親子でご覧いただければと思います。

(2020.8.11 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載していきます。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
のでのでので
五味太郎・作 人間も動物。子どもにはまだまだ直感があるんだ。
ぶきゃぶきゃぶー
なにがなんだか分からないけど ぶきゃ ぶきゃ ぶー ブタおじさんのバスは はしります
たびにでた
楓真知子・作 ダイナミックなタッチで描かれるカエデマワールドをお楽しみください。!
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