第53回「そういう人にわたしもなりたい」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

「子どもたちに優しさを伝えよう」という絵本があります。ところが絵本で「優しさ」や「善いこと」を伝えるのは、ほとんど無理だと思ったほうがいいのではないでしょうか。表面だけの「優しさ」だったら絵本であらわすことは出来るかもしれません。しかし、それが子どもの血となり肉になるか、はなはだ疑問です。実感をともなわない絵空事の「優しさ」を身につけると場合によっては、本人が気付かないうちに偽善者になってしまう可能性だってあります。
子どもには「優しさ」を頭から信じ込む力ではなく、「ものごとを客観的にみる力」が大事です。客観的となれば、「優しさ」とちがって絵本の活躍する場はいくらでもあります。

戸田:

そうでしょうね。

有川:

「客観的なものの見方」が身近なものとなっていく。そんな絵本を描ける第一人者は、なんといっても五味太郎さんをおいて他にいません。欧米のみならず世界中で、五味さんの絵本が次々と出版されています。その大きな理由の一つが「客観的なものの見方」をやすやすと子どもに提示でき、その上子どもがよろこぶ、その得がたい力です。論より証拠という訳ではありませんが、五味さんの『ぼくはぞうだ』を手にとって見てください。「なるほど」と実感されるでしょう。


五味太郎『ぼくはぞうだ』

戸田:

五味さんの絵本は独特ですものね。

有川:

そうですね。ところで、いま心理学の世界では革命が起こっているそうです。医師と患者が1対1の対面で話す。すると、だんだん患者が落ちこんでいってしまう。では、どうすればいいのか。

戸田:

ええ。

有川:

患者と医師だけでなく看護士や患者の家族・友人までをふくむチームによるミーティング、オープンダイアログと言うそうです。苦しむ人に「あなたを助けたい」と、人は思うものです。そして、よいやり方を助言したり、間違いを指摘したりする。すると、ほとんどの人は心を閉ざしてしまう。なぜなら人間は自己愛を心張り棒に生きていますから、今まで自分がもっていた考えや意識を変えるのは、とてつもなく大変なことです。無意識でしょうけど、全力で抵抗するようになるそうです。なぜ善意のアドバイスが失敗するのか、それは正しい言葉を発した瞬間に、言われた相手は正しくない人になってしまう。そう言われてみると「なるほど」と思います。家庭や学校や職場で、人はついつい善意でアドバイスをしがちですよね。よかれと思った言葉がどれほど家庭や学校や社会に暗雲をもたらすことか。「善意の暗雲」は悩める人にとっては、大きな雲ではなく大きな壁になっているのかもしれません。なにしろ相手は善意ですから対決というわけにはいきません。その本によると「苦しむ人の言葉を途中で遮らず最後まで聞いてみる」と書いてありました。僕のようなオシャベリは「遮らず」は難しいですね。(笑)

戸田:

なるほど、よく聞かなければならないですね。

有川:

苦しむ者の言葉も善意の助言も、実はひとり言でしかない。ひとり言というのは、どうしても考え方が悪い方向に行きがちになるそうです。夜中、一人で考えこむのは良くないわけです。
コロナで気になるのがメディアです。コロナに感染したタレントやスポーツ選手の謝罪場面を当たり前のように報道しています。間違いを指摘したり善意のアドバイスだったり、マスコミがそんなことをするのは日本だけらしいですよ。

戸田:

そうなんですか。

有川:

ほとんどの人は自分から好んで感染する人はいませんでしょう。

戸田:

そうですよね。

有川:

大阪大学がコロナに感染した人に「自分の不注意だと思いますか」という調査をしたら、11%の人が「自分の不注意」と言ったそうです。

戸田:

どうしてでしょう。

有川:

「不注意」と答えた人は、中国は6%、ヨーロッパでは2〜3%、アメリカに至っては1%だったそうです。
「おまえの不注意でこんなことになったんだ」と、家に石を投げる人が出てくる。実際にあった話で、その人はそこに居られなくなり、家も職業も変わったそうです。

戸田:

どこかの県知事さんが「無罪放免」と言いましたものね。有罪、無罪の話のようになってしまっています。

有川:

違うでしょう。罪があるなしの話ではない。

戸田:

もうビックリです。

有川:

「どうですか、お身体の具合は。早く良くなるといいですね」というのが普通の会話です。

戸田:

そうですね。

有川:

それなのに、石を投げるというのは「一体なんだろう」と思います。

戸田:

ええ。

有川:

こんな時だからでしょうけど、考えられないタイプの人が世の中にはいるんだということに気がつきます。でも、その人たちを育てたのも、我々の社会です。幼少の頃からのいろいろな要素が関係しているんでしょう。こういう時こそ、情は情で好きなんですけど、今こそ客観的なものの見方が重要です。マスコミの人たちは「感染した人は謝罪するのが当たり前だ」といった、感情にうったえるような報道はしないでほしい。そういったマスコミと石を投げる人との距離は、かなり近い気がします。

戸田:

そうですね。

有川:

「自分の責任だ」というのが11%の日本、1%のアメリカはあまりにも違います。なんでも日本よりアメリカのほうがいいわけではありませんが、コロナは、日本の社会の在り方をあぶり出しているような気がしますね。

戸田:

ええ。

有川:

ある意味コロナが、自分や自分の社会を振り返るきっかけになればいいなと思います。なるべく軽やかな心の動きで、周りの人を見ることができるような人間になりたいものです。宮澤賢治ではないけれど「そういう人にわたしもなりたい」(笑)。

戸田:

そうですね。人にも自分にも甘くていいですか(笑)。

有川:

そうそう。人にキツくあたるぐらいなら、人には甘く、自分にはいくらか厳しくぐらいがいいですね。できるかな(笑)。

戸田:

有川さんのお話をうかがっていると心がちょっと楽になります(笑)。

有川:

ありがとうございます(笑)。

戸田:

有川さん、今日もありがとうございました。来月もよろしくお願いいたします。

有川:

はい。こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。

今日の有川さんのお話にも登場した五味太郎さんの最新刊をご紹介させていただきます。
とりあえずシリーズ第3弾『とりあえずまちましょう』。


五味太郎『とりあえずまちましょう』

近頃いろいろあるけれど
いろんなことが起こるけど
ま、とりあえずまちましょう
待てば海路の日和ありって
いうじゃないですか!

五味太郎さんからのメッセージです。

なんだかいつも忙しくて、バタバタ、ウロウロ、イライラしているみなさん、ここはひとつのんびり、ゆったり、ぼんやりと、焦らず待ってみるのもけっこういいものですよ、というあたりで、とりあえずまちましょう、です。
すぐにお読みにならなくても構いません。
いつかお読みいただきたいと思います。
お待ちしています。

第1弾の『とりあえずごめんなさい』
第2弾の『とりあえずありがとう』も好評発売中です。
絵本館からの新刊、五味太郎さんの人気シリーズ第3弾『とりあえずまちましょう』、ぜひお手にとってみてくださいね。
(2020.9.08 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載していきます。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ぼくはぞうだ
客観とはなにか。さまざまな角度からものを見るのに適した格好の絵本。
とりあえずまちましょう
五味太郎・作 「とりあえず」シリーズ第3弾!
とりあえずごめんなさい
あれれれ、なんだか変?とりあえず「ごめんなさい」!
とりあえずありがとう
ふつうに「ありがとう」ではなく「とりあえず ありがとう」
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