第54回「風雅はどこからくるかしら」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

「戯曲」の「戯」という漢字があります。「ふざける」「たわむれる」という意味ですね。

戸田:

はい。

有川:

ところが国文学者の鈴木棠三さんの『ことば遊び』によると平安時代、「戯」の1番目の意味は、もちろん「ふざける」ですが、2番目に「機転が利く」という意味があるそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

そして3番目は「くだけた感じ」。これはまあ、そうでしょう。気持ちに「くだけた」ところがなくては「ふざける」こともできないし、「機転」も生まれてこない。ですから「ふざける」から「機転」までは一つのつながりと考えることができる。

戸田:

ええ。

有川:

ところが、4番目に「風雅な趣」というのがあるそうです。

戸田:

あら。

有川:

ちょっと驚きますね。「風情がある」とか「雅」がでてくるんです。

戸田:

そうなんですね。

有川:

われわれも絵本を作っているときは「ふざける」「くだけた感じ」という気分には満ちているし、「機転」も大事だと思っています(笑)。それにしても「雅」が「くだけた感じ」や「機転」「ふざける」気持ちと縁があるとは、うれしくなります(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

モーツァルトの伝記映画『アマデュウス』を観ると、モーツァルトは冗談や卑猥なことを言ってキャッキャ、キャッキャとふざけてばかり、クラシックファンにとっては「聖なるモーツァルトなのに」と眉をひそめるところです(笑)。しかしモーツァルトはバカ騒ぎしながら、どんどん名曲を作っていく、まさに天才です。われわれは、あの清らかな天上の音楽と「ふざけてばかり」のモーツァルトを受け容れ難く、もっと難しい顔をして悩みながら作曲していると思い込んでいた。なにしろ学校の音楽室にかかっているバッハ、ベートーヴェン、ブラームス、もちろんモーツァルトもみな難しい顔をしていた。
それが勘違いで、もしかしたら「ふざける」と「風雅・雅」は、背中合わせで一体なのかもしれません。

戸田:

そうかもしれませんね。

有川:

福山出身の作家といえば井伏鱒二さん。その井伏さんにふざけた感じの詩があります。「春の夜や いやですだめです いけません」、この詩を口ずさむたびに、なぜかうれしくなってしまいます。

戸田:

(笑)。

有川:

戯れ唄というのでしょうか、ひかえめななかに洒落た味わいがある。まさしく「ふざける」から生まれる「雅」、「戯」の本来の趣を感じさせる詩です。蝶のようにヒラヒラとした精神の自由さが感じられ、なんとも言えずいいです。女性の気持ちをあたたかく見まもる男、そんなシルエットが感じられます。ずいぶん前になりますが、福山美術館で井伏さんのこの詩をみました。味のある字もすきです。
いつもお話しているように、絵本では絵と文の間にあるちょっとした距離、その距離の橋渡しの役目をするのが読者にとっての楽しみです。

戸田:

ええ。

有川:

「ふざける」「たわむれる」といえば、言葉遊び。なかでも回文は日本語の特徴を生かした言葉遊びです。今回、回文の絵本ができました。

戸田:

見せていただきました。よく考えられましたね。
47都道府県名をすべての回文に入れた本村亜美さんは、すごいなあと思っています。

有川:

すごいですよね。

戸田:

そしてまた高畠さんの絵がお見事です。

有川:

そうなんです。絵が付くと格段に世界がひろがります。たとえば愛知の回文は「ちいあるあいち」(地位ある愛知)。何のことかと思うと、絵は信長と秀吉と家康がオープンカーに乗っている。オープンカーは愛知ですからトヨタ(笑)。

戸田:

そうでした!(笑)。


本村亜美・文/高畠純・絵『日本どっちからよんでも -さんぽっ にっぽんさ-』

有川:

「ちいあるあいち」という文に、どんな絵を描いたらおもしろくなるかと考える高畠さん。この3人が難しい顔してオープンカーに乗っている絵を思い浮かべる。

戸田:

(笑)。

有川:

絵があることによって全体がひろがる。そこが絵本のおもしろいところですね。
はじめ、亜美さんは「47都道府県名を入れた回文なんて無理ですよ」と言っていたんです。

戸田:

ええ。

有川:

亜美さんから「北海道」には「旭川」が入った回文がきたんです。それを見て「北海道は北海道が入った回文でいきましょう」と言ったら、高畠さんが「有川さん、それは難しいんじゃないの?」と言うんです。
高畠さんは女性に優しい、いや、優しいのは女性にだけではないんですけど。ことに女性には優しい(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

そんなふうなやりとりをしているうちにレベルアップして、おもしろい回文がどんどん出来上がってくる。兵庫などは、何回もトライして「つなごうよひょうごなつ」(つなごうよ兵庫夏)となった。

戸田:

そうだったんですね。

有川:

ちなみにご当地広島は「よるひろしましろひるよ」(夜広島城昼よ)です。

戸田:

広島にはカープも出ていますよね。

有川:

高知もふざけています。「りょうまかいけっこうちうこっけいかまうより」(龍馬か行けっ高知烏骨鶏かまうより)すごいでしょう。また最後のページの沖縄がいい。

戸田:

「とわなきおくおきなわと」(永遠な記憶沖縄と)、感動しました!

有川:

最後にふさわしいきれいな回文、見事です。

戸田:

ほんとにそうですね。みなさん、本屋さんでぜひ手にとってみてください。有川さん、今日も楽しい話をありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
有川さんのお話にもありました絵本館の新刊『日本どっちからよんでも -さんぽっ にっぽんさ-』。
日本全国47都道府県の県名が見事な回文になりました。
そこに絵がつくと、さらに特別な味わいが生まれます。

文を書かれた本村亜美さんのメッセージです。

すべての都道府県回文が完成したときは、まるで日本一周した気持ちになりました。出不精なのに不思議な気持ちです。
制限された文字の中で回文をつくるのは難しかったですが、“この文だと絵にはならないかな?”と思うものも高畠先生が素敵に面白く描いてくださるので自由にどんどんつくることができ、とても楽しかったです。
回文を楽しむのはもちろん、日本のことをもっと知りたくなる絵本です。

そして、高畠純さんからのメッセージです。

都道府県を全て回文にする本村亜美さんの取り組み。大変な作業ではあるけれど、本人はいたって楽しんでる
様子。
うっとりする回文、おもしろ回文、ストレートな回文。いろいろできあがった回文に、その内容をつかんでその地域ならではの“絵”にするのがぼくの仕事。
歴史上の人物、有名人、特産、名所、イメージなどなど、調べて描きながらぼくもとても勉強になったし、その場所にも行きたくなる。
北の北海道から着色を始め、順に47都道府県。南の沖縄を着色完成したときには、祭りの後のような妙なさびしさも感じた。
どうぞ、読んで、見て、笑いつつ、感心しつつおもしろがってください。

文・本村亜美さん、絵・高畠純さん『日本どっちからよんでも -さんぽっ にっぽんさ-』。絵本館からの新刊です。
(2020.10.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載していきます。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
日本どっちからよんでも -さんぽっ にっぽんさ-
本村亜美・文/高畠純・絵 47都道府県を回文でご紹介!
どっちからよんでも -にわとりとわに-
どこか力の抜けた回文と、味わい深い絵が合体して楽しい絵本になりました!
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