第51回「残りは読者の想像に」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

いつも僕は「絵本には省略と飛躍が大切だ」と話していますが、先日、新聞に落語家の柳家小さん師匠の話が出ていたんです。
お弟子さんに「お前の噺は無駄が多い。なんも伝わらない。落語ってぇのはな、年寄りも子どもも若い人も、同じように笑い、涙するもんだ。自分の考えをおしつけるのは落語じゃないんだ」と叱った。

戸田:

ええ。

有川:

お弟子さんは「確かに山の美しさといっても、みる人それぞれに思いが違う」と考え、事細かな描写はやめて「ごらんよ、きれいな山だねえ」としてみた。すると、噺に精彩が出てきて「ああ、師匠が言っていたのは、こういうことだったのか」と、わかったそうです。

戸田:

なるほど。

有川:

日本文学研究者のドナルド・キーンさんは「日本の文学は抒情の文学だと思う。すべてを言い尽くさないで残りは読者の想像に任せる。全部を言い切ってしまうと魅力がないと思われる。しかし西洋では、そういった曖昧な文章はよくないと思われている。きちっと説明をつくさないと悪い文章の見本になってしまう」と書いています。日本と欧米との大きな違いですね。

戸田:

そうなんですね。

有川:

昨年亡くなられた橋本治さんの文章で、思わず膝を打つものがありました。
「他人にものを考えさせるためには、親切であるよりも少し意地悪だったほうがいいので、わざとどこかを意地悪く欠落させておいたほうが“この欠けた部分は何だ?”と思って、人は考えてくれる」。
これは、絵本にも通ずるとても大事な考えかたです。しかし多くの大人は長いこと逆をやってきた。「子どもはよくわかっていないから、なるべく丁寧に説明してあげなければ」という考え方です。そうすると子どもたちの想像する力はどこで動き出すのでしょうか。
高畠純さんも、まったく同じことをおっしゃっていました。
「絵本はね、わざと“ちょっと足りなく”するほうが、読者の想像力が増すと思うんだ」。
4人の方が全く同じことを言っているんです。

戸田:

そうですねえ。

有川:

ドナルド・キーンさんは、『徒然草』について、「日本語のこういった文章は、散文も含め詩的で示唆的なものがとても有力だ」と書いています。
示唆的ですから、すべてを言い尽くさずにおわせる、残りは読者の想像にまかせる。そう考えると俳句などの誕生の理由が見えてきます。

戸田:

本当にそうですね。

有川:

いつも僕はびっくりするのですが、朝日新聞や毎日新聞などに、あれだけたくさんの方が俳句や和歌、川柳などを投稿しています。

戸田:

楽しんでいらっしゃる方、とても多いですよね。

有川:

一般の人たちがこんなに短い形式の詩を、どんどん作っている国というのは、他にはないでしょう。

戸田:

そうですよね。

有川:

特に絵本の場合、絵と文の関係、すこしそれぞれを欠落させる。そんな関係が大事です。そうなってはじめてお互いが響き合うことになる。ドナルド・キーンさんがおっしゃっているように、「すべてを言い尽くさず、残りは読者の想像にまかせる」ということ、絵も文も使えるわけですから考え方次第ではやりやすいんだと思います。省略しても、文と絵それぞれが助け合っている。
たとえば、五味太郎さんの『いっぽんばしわたる』では、「しらずにわたる」という場面では、キリンの足の部分だけが描かれている。

戸田:

ええ(笑)。


五味太郎『いっぽんばしわたる』

有川:

でも、だれが見てもキリンだとわかる。その省略の瞬間的に読者は「キリンだもの、たぶん知らずに渡ってしまったんだね」と、自然に頭を働かせる。
これが、「残りは読者の想像にまかせる」ということです。そして、この「残りは読者の想像にまかせる」というところで、子どもたちの想像力が動き出すのではないかと、僕は思います。

戸田:

本当にそうですね。

有川:

今回は、思わず力をこめて話してしまいました(笑)。

戸田:

今日もとてもいいお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。

絵本館の新刊のお知らせです。あの大人気妖怪絵本シリーズ第8弾、広瀬克也さんの『妖怪のど自慢』が絶賛発売中です。

ブルース、ロック、演歌にマーチ。
しみじみ歌うか、はじけて歌うか。
ガイコツ、やまんば、三つ目おんな、みのわらじ、
一つ目小僧も元気に歌う。
演芸コーナーも、これまた楽し。
見事な司会は、びわぼくぼく。歌姫くちさけてるこはスペシャルゲスト。
さあ、高らかに鐘を鳴らすのは誰?

広瀬克也さんのメッセージです。

妖怪横丁の妖怪たちも、みんな歌がだいすきです。
ということで、今回は『妖怪のど自慢』!!
さてさて、どんな歌がとびだすか?
さあ、手拍子もご一緒に。
どうぞお楽しみください。

(2020.7.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載していきます。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
https://ehonkan.co.jp/ehon/021/
妖怪のど自慢
広瀬克也・作 大人気妖怪絵本シリーズ第8弾!
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