ひき続き五味太郎さんの絵本についてです。
『さる・るるる』、1979年初版。
ある日、五味さんがシャワーをしていた。その時「あ・い・う・え・お・五十音に“る”をつけると、ほとんど動詞になる」ことに気づいた。日本語はおもしろい、発見です。「これは絵本になる」と絵本作家は思った。
主人公は当然“さる”です。
そしてその日のうちに仕上がり、「新しい絵本が出来たぞ」と僕に連絡をくれた。発想から5時間半。最短記録の絵本です。
さる・くる
さる・みる
さる・ける
“さる”は、「どこにきて」「なにをみて」「なぜけったか」は、絵が語ります。読者は、ただ絵をみるだけでなく、文のなかに絵を取りいれ組みこんでいく。
かつてこのような絵本はありませんでした。言ってみれば「ことば遊び絵本」のパイオニア。
「さる・くる」であって、「さるがくる」「さるはくる」ではありません。
なによりリズム重視、だから助詞の「が」「は」はない。
声を出して読んでみれば分かります。とてもリズミカル。
背景も色彩も「あなたにおまかせ」ということでしょうか。
背景もいたってシンプル。
色も二色のみ。
にもかかわらず、違和感がない。
以前、五味さんが出演したNHKのラジオでアナウンサーが最後に『さる・るるる』を朗読した。
この絵本をまだ読んだことのない人は、どんな場面を思い浮かべながら聴いたんでしょう。
ところが、絵本は朗読にはあまり向かないものです。
ことにこの『さる・るるる』は向きません。散文に挿絵がついている絵本とは違います。
『さる・るるる』は、文と絵が互いに不足する部分を助けあいながら共同作業をすることで成り立っている絵本だからです。
すぐれた絵本作家は、絵本の文や絵をとことんまで突きつめて書いたり描いたりしません。
その一歩手前で引く。これはなかなか出来ない、難しい。
一歩手前で引くから、文や絵に余白や隙間がうまれます。読者には想像する余地が残される。
五味さんは「素材は提供するから、あとはみなさんどうぞご随意に」と思っている。たのしみ方は読者に委ねる。これが五味さんの絵本の大きな特徴です。
余白や隙間、つまり省略や飛躍があればこそ、知らず知らずのうちに読者に想像する力もうまれてくる。
想像する読者。
この状態になると作家だけがクリエイターなのでなく、読者もクリエイターです。クリエイト。
子どもは想像するだけでなく創造する力も持つようになるでしょう。いわば作家50%、読者50%となる。
これは五味さんがつねづね思っていることです。
「50%は作家の作業。あとの50%はきみたちもつくってね」と。
そのことを象徴的にあらわしている絵本があります。ブロンズ新社の『らくがき絵本』です。
表紙と背に五味太郎50%と記してあります。
らくがきだから50%ではありません。五味さんの絵本に相通じる、大袈裟な言い方ですが理念です。