第8回「選択は、そのこと自体が知的行為」

戸田:

有川さん、こんにちは。

有川:

こんにちは。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

みんなそれぞれ金言といいますか、目からウロコの言葉があるかと思うんです。

戸田:

ええ。

有川:

僕にとっての金言は、「選択は、そのこと自体が知的行為である」です。
「知的とは何か」と前から思っていたんですが、京都大学の桑原武夫さん、フランス文学者なんですが『論語』という本を書いているんです。

戸田:

(笑)。

有川:

お父さんは京都帝国大学教授桑原隲蔵さん、東洋史の権威です。その関係で幼少の頃から『論語』に親しんでいたんですね。その『論語』の中に「選択とは、そのこと自体が知的行為である」と書いてありました。ただ単に本をたくさん読めばいいのではなく、「どれにしようかな」と選ぶ。その時の頭の状態、動きを知的というんだと思いました。
そこで自分のことを振り返って考えてみたら、学校はなんにも選択をさせない場所だなと。選択があるとすれば、クラブ活動をどれにするかくらいでしょうか。

戸田:

ええ。

有川:

あとは、強要や横並び。これでは日本人が知的になるわけがない。それを裏付けるようなことをエコノミストの藻谷浩介さんも書いています。「受験のための勉強は、教わったとおりに丸暗記するだけ、習ったこと、暗記したことを素直に信じ込める人が有利です。彼らは現実に照らして考え直すようなことはせず、生身の現実を前にすると思考停止する」と。
そうなると絵本が果たす役割は何か、ということになります。

戸田:

ええ。

有川:

子どもの本で、具体的で一番簡単な選択といえば、「なぞなぞ」ではないでしょうか。自分で「あれでもない、これかな」と考えるのにうってつけです。頭の回転だけでなく、とんち力もつく。

戸田:

なぞなぞ、たのしいですよねえ。

有川:

ここ福山出身のおおなり修司さんの『なぞなぞはじまるよ』という絵本があります。おおなりさんが保育園で子どもたちに、このなぞなぞ絵本を読んだ時の光景、子どもたちの真剣な目。その表情を見た時に、子どもたちにはたくさんなぞなぞをやったほうがいいとつくづく思いました。

戸田:

発想がユニークで頭が柔らかくなりますよね。

有川:

ええ、親子とか、ともだちみんなでワイワイたのしくやってほしいです。
たとえば「からすとうしとやぎがならんでよんでいるとり、なあに?」、わかりますか。この絵本は、ただのなぞなぞ絵本ではありません。よくみると絵にヒントがかくされています。「絵をみる」だけでなく自然と「絵をよむ」ようになっている。

戸田:

私もこの絵本を持っているんですが、何回読んでも笑えて、すごくたのしいんです。

有川:

そして、選択に一番いい場所があります。残念ですが、実は学校ではなくて本屋さんです。

戸田:

なるほど。

有川:

亡くなられた心理学者の河合隼雄さんが「子どもを本好きにするのはそんなに難しいことではない」とおっしゃっています。子どもの誕生日など、イベントのときに親子で本屋さんに行く。時間は1時間、予算も決めて、それぞれみんなで好きな本を1冊ずつ選ぶというのをおやりになっていたそうです。すると子どもは自然と本好きになるそうです。本屋さんは、選択にとてもいい場所です。昔から、本は知的だと思われてきたわけですが、本プラス本を選ぶ行為そのものが知的だったのかもしれません。だから、本は本屋で選ばなければ腕はあがりませんし、知的にもなりません。

戸田:

そうですね、もっともっと本屋さんに足を運んでもらいたいですね。

有川:

一番大切なことは、子どもたちが自分で選ぶということです。ただし子どもがどんな絵本や本を選んでも、決して文句は言わない。心を鬼にして選んだ本を尊重してあげてください。さもないと元も子もなくなり、反対に本嫌いになるでしょう。失敗も糧になります。失敗も自分で「失敗だ」と気づかないと糧になりません。

戸田:

有川さん、今日も素敵なお話をありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話を伺いました。
有川さんのお話にもありました福山出身の絵本作家おおなり修司さんの『なぞなぞはじまるよ』、高畠純さんの絵もとてもたのしくて、すごくオススメです。
32個もなぞなぞが入っていて、おとなも思わず笑ってしまう内容です。ぜひ、親子でたのしんでください。おおなり修司さんの絵本、私も大好きなんです。
(2016.11.8 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
なぞなぞはじまるよ
なぞなぞの面白さと絵本の楽しさが合体!
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