第9回「元気がないときの特効薬」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

早いもので、今年最後のご出演となります。クリスマスも近いです。

有川:

絵本館からもクリスマスの絵本を何冊か出しているんです。
一番最初に出したクリスマス絵本は1980年、五味太郎さんの『クリスマスにはおくりもの』です。

有川:

この絵本の中には当時の僕が描かれているんです(笑)。
五味さんも出ています。右から2番目が五味さん、左から3番目が僕です。

戸田:

(笑)。では、今日は『クリスマスにはおくりもの』についてのお話ですね。

有川:

はい。さて元気がないときに、何が滋養強壮剤となるか、というと思いやりでしょうか。

戸田:

そうですねえ。

有川:

心のやさしい人がそばにいると、元気が出てきますね。

戸田:

ええ、確かに。

有川:

この『クリスマスにはおくりもの』に登場する女の子が、まさにそれ。

「クリスマスイブのよるには
くつしたをさげておきます
おくりものは なにかしら      
きっとあれだとおもうのだけれど
そのうちすやすやねむります」

有川:

やがてサンタクロースがやってきて、くつしたにおくりものを入れます。

戸田:

ええ。

有川:

すると、サンタクロースは「おや、なにか入っているぞ」と。くつしたの中には、なんと女の子からサンタクロースへおくりものが入っていたんです。
サンタさんは大喜びです。すぐに開けたかったけれど朝まで我慢します。ここがいいですね。

戸田:

(笑)。

有川:

朝になり、サンタさんがおくりものを開けると、暖かそうなくつしたが入っている。「やった、やった。こんないいものだとおもわなかった」と、サンタさんは喜びます。
実は昨夜、サンタさんがはいていたくつしたには穴があいていたんです。そこまで女の子は、わかっていたわけではないでしょうが「寒いところ、おつかれさま」という気持ちが込められているんでしょうね。

戸田:

ええ。

有川:

サンタさんから女の子へのプレゼントは靴でした。
翌朝その靴をはいて女の子は教会へ行くんです。するとそこには、新しいくつしたをはいて正装したサンタクロースも来ている。さらに五味太郎さんも、僕、有川裕俊も来ていた、というわけですね(笑)。

戸田:

そういうことなんですねえ(笑)。

有川:

こういう気持ちのいい女の子が自分の子だったり、孫だったりしたら申し分ないでしょう。そしてもし女房だったらもっとよかったんだけどなあーと自分のことはそっちのけで、勝手なことを考えています(笑)。

戸田:

(笑)。
こういった思いやりをもつ子にとか、やさしい子に育ってほしいとか思いますよね。でも、どうすればそんな心もちを自然に身につけることができるようになるかなとも思います。

有川:

そのとおりです。やさしさを押しつけがましくダイレクトに表現してはダメなんですよね。
優れた絵本作家というものは、出すのは結論ではなくヒントです。受け手である読者が「こんなやさしい気持ちの子どもがいたらいいなあ」と自然に思えるように表現するものです。そういう点でも『クリスマスにはおくりもの』は名作だと思います。
いつもプレゼントをくばってばかりのサンタさん。そのサンタさんにプレゼントを準備しようと考える女の子。とりあえず逆の立場になって考えてみる。まさしく今までにない、五味さんならではの新しいものの見方を示した絵本です。

戸田:

そうですね、この色づかいもクリスマスに合いますね。

有川:

ええ。そしてまた、この見返しの色も見事です。

戸田:

本当に素敵な色ですね。
有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話を伺いました。
昨日私は、啓文社ポートプラザ店に行ってきたんですが、特設のクリスマス絵本コーナーに、あの不朽の名作絵本五味太郎さんの『クリスマスにはおくりもの』が、書店員さんのコメント付きのポップと一緒に並べられていました。
時代をこえて愛されている絵本なんですよね。
そして、若かりし頃の有川さんのイラスト、背が高くてとっても素敵でした。ぜひみなさんもご覧になってくださいね。
(2016.12.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
クリスマスにはおくりもの
五味太郎・作クリスマスを楽しみにしているのは、サンタさんもいっしょ!
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