第7回「本当の嘘つき」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

お子さんやお孫さんに絵本を選ぶとき「どんな絵本がいいのか」と迷うことがあると思います。

戸田:

すごく悩みます。

有川:

僕も絵本の出版をはじめる前、今41歳になる娘が1歳ちょっとぐらいのとき、書店で自分の本を選びながら「そうだ、娘に絵本でも買ってかえろう」と絵本売り場に行ったんです。すぐにパッと決まるだろうと思っていたのですが、これがまるっきりわからないんです。

戸田:

わからないんですよねえ。

有川:

何故わからないかというと、どうしても「1歳の子どもは、どの程度のことを理解できるんだろう」と思ってしまうからです。そういうふうに考えると、親は泥沼に落ち込んでいきます。

戸田:

(笑)。

有川:

では、どう考えたらいいか。
なにしろ自分の子ども、あるいは孫なんだから、ほんの少し、あるいはいくらか自分に似ているところがあるだろう、と楽観的に考えればいいんです。僕のように子どもの年齢など気にしてはいけません。まず選んであげる大人が気に入るかどうか、です。
読んであげる大人本人がおもしろいと思わない絵本を読んであげるのも変でしょう。

戸田:

ああ、なるほどね。

有川:

もう一つ有力なアプローチがあります。子どもはいろんなことに興味を示します。年齢ではなく、お子さん、お孫さんが「何を好きか」ということです。笑える話やユーモラスなことが好きだったらユーモラスな絵本、のりものが好きなら、のりもの絵本とか、おばけとか妖怪、たべもの、きょうりゅうとか、そういうものが好きなお子さんはたくさんいます。子どもが今もっている興味や関心に注目して絵本を選んでもらえばいいと思います。
書店の絵本の棚がそういったカテゴリー別にできていれば選びやすくなりますね。そんな本屋さんも少しですが増えています。

戸田:

そうですか。


五味太郎「海は広いね、おじいちゃん」より

有川:

文化庁長官もなさった京都大学の河合隼雄さんという心理学の先生がいらした。その河合さんにお会いした時、多くの人から「河合先生は心理学の先生だから、自分の心の底の底まで見透かされているような気がして怖い」と言われることがよくあるそうです。ところが「わたしたちはプロだから“人の気持ちはよくわからない”ということをよくわかっている。だから、もっぱら人の話をよく聞くだけなんです」とおっしゃっていました。
昨年発売40年で100万部になった『もこ もこもこ』(文研出版)という絵本があります。文は谷川俊太郎さん、絵は抽象画家の元永忠正さん。元永さんが亡くなる1年ほど前に朝日新聞のコラムに「子どもの気持ちがよくわかる、という人がいるけれど、本当に嘘つきだと思う」と書かれていました。

戸田:

(笑)。

有川:

河合さんも元永さんも「子どもの気持ちはわからない」と言っているのですから、心おきなく子どもの喜ぶ様子をみながら「うちの子は、孫は、こういう絵本が好ききなんだな」と、おだやかな気持ちで一緒にたのしむという方向にいってもらえたらうれしいですね。子どもはいるだけでありがたいと思いましょう。我が家の犬を見ていても、いてくれるだけでつくづくありがたいと思いますね。子どもと犬を一緒にして、すみませんが。

戸田:

本当にそうですねえ。有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

はい。こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
私もよく孫たちに絵本をプレゼントしています。12月に2歳の子の誕生日と、クリスマスも近いので4歳のお姉ちゃんと一緒に絵本を贈ろうと思っているんです。選ぶのも楽しみです。でもすごく悩んでしまうので、今日の有川さんのお話を参考にまた素敵な一冊を選びたいなと思います。
(2016.10.11 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
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