第6回「立場上言えませんが…」

戸田:

有川さん。今日もよろしくお願いいたします。

有川:

はい、よろしくお願いします。

戸田:

今月はどんなお話ですか。

有川:

世の中には「立場上言えませんが」ということがたくさんあります。実のところ「立場上言えませんが」ということが、みなさん一番知りたいことなのではないでしょうか。

戸田:

確かに(笑)。

有川:

われわれの業界で「立場上言えませんが」の代表的なものは、課題図書ですね。

戸田:

そうなんですか。

有川:

ええ。“てにをは”もよくわからない小学校1年生に「絵本の感想文を書け」というのは、土台無茶苦茶な話です。本を読んで感想文、大人でもイヤでしょう。
子どもを本嫌いにするのに、これほど効果的なものはないでしょうね。でも業界では誰も言わない。立場上言えません。
よく本屋さんで「3歳の男の子ですけど」「5歳の女の子ですけど、どんな絵本がいいでしょうか」と聞く人がいますが、実はこれも問題です。

戸田:

え、そうなのですか。

有川:

5歳児にピッタリの絵本というものは、もともとない。というのは「ピッタリ」というからには、全国の5歳児がまったく同じ感受性や感性をもつことが前提になる。そんなことはありえないでしょう。兄弟でも同じではないのですから。
そのうえ5歳にピッタリの絵本なら、6歳、7歳の子のおかあさんは見向きもしないし、もちろん買わない。
「これは、うちの子よりも小さい子が読む絵本だから」と、結果、選択の範囲をせばめている。

戸田:

なるほど。

有川:

僕は40年ちかく絵本の出版をしてきましたが、子どもの年齢のことは考えないでやってきました。なぜかと言うと考えてもわからないからです。わかっている専門家も本当のところはいません。

戸田:

(笑)。

有川:

『パンダ銭湯』という絵本が、今とても人気なんです。
娘がボランティアで小学校3年生の息子の教室で読んだら、大受けだったそうです。娘が「おとうさん、『パンダ銭湯』、すごいよ」なんて言うんです。ところが、娘の3歳の女の子もこの絵本が大好きで喜んでいるんです。

戸田:

ええ。

有川:

この『パンダ銭湯』は3年生向きなのか、3歳児向きなのか、どっちなのかということになる。つまり年齢にピッタリの絵本などもともとない。ないものをあると決めてかかっているので、どうしてもおかあさんたちは迷ってしまうんです。
わかってもいないのにわかったふりをする、半ちくな専門家と称する人が多い。困ったものです。
絵本には対象年齢などない、と思ってしまえば気が楽になります。本当にないのですから安心してください。つまり自分の子どもと周りの子どもを比較しない。すると親子関係は楽になります。

戸田:

はい。

有川:

お酒は20歳を過ぎてから、といいますでしょう。でも、僕は幼稚園にあがる前から祖父の膝の上で焼酎を飲んでいました(笑)。

戸田:

そんなこと言っていいんですか(笑)。

有川:

小学校に上がる頃には、1合くらい飲めましたよ。焼酎にも対象年齢はありません(笑)。

戸田:

何十年も前のことで時効ということでね(笑)。
おかあさんたちは、「なにか学んでくれたら」という下心があったりするのかもしれませんね。

有川:

そう、下心は当然ありますよね。しかし、その下心が強すぎて子どもの成長の邪魔にならなければいいのですがね(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

杉並区の図書館で司書を長くなさっていた方が言っていたんですが、いつも同じ絵本ばかり借りる子がよくいるそうです。同じ絵本ばかり借りるので、しまいにはおかあさんが「いいかげんにしなさい。今日は違う絵本にしなさい」と怒りだしたりする。
「そんなに好きな絵本なら買ってあげればいいのに」と思うんだけれど、立場上言えない。

戸田:

(笑)。

有川:

もう一つは、絵本専門店の方たちもよく経験することだそうです。おかあさんと子どもが一緒に来店して「◯◯ちゃん、1年生になったのだから好きな絵本を選びなさい」と言われて、子どもが2冊くらい選んでくる。
すると、「こんな漫画みたいな絵本はだめ」とか、「もっと字が多いものにしなさい」とか言われて、子どもがせっかく選んだ絵本が却下されてしまう。これも多いそうです。これでは、子どもが本好きになるなんて、とうてい無理でしょう。登った梯子をはずすのではなく、梯子を蹴飛ばすようなものです。子どもを本嫌いにしているのに、親は気づいていない。「もっと自由に選ばせてあげればいいのに」と、立場上言えない。
子どもが本を選ぶのを、もっとあたたかい気持ちでみてやってほしいと思います。選んだということ自体が尊いのですから。

戸田:

確かにそうですよねえ。

有川:

子どもと親、あたりまえですが、それぞれ別の人間です。「そうか、私の子は、孫は、こういう絵本がすきなのか。なるほど」とゆったりと一緒に楽しんでもらえたら、うれしいですね。大人が思う“いい・おもしろい”と子どもの“おもしろい”が違ってあたりまえです。

戸田:

その言葉、しっかりと心にとどめておきたいと思います。
今日もたのしいお話をありがとうございました。

有川:

とんでもないです。失礼します。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をうかがいました。
有川さんのお話にもでてきた『パンダ銭湯』、すごくおもしろくて私も大好きなんですね。これはtupera tuperaという亀山達矢さんと中川敦子さんのユニットが手がけた絵本なんですが、とにかくおもしろいです。なかなかシュールで、私も何回も読んでしまいます。かなり気に入っています。ぜひみなさんもチェックしてください。
そして絵本館から最新刊のお知らせです。『キリンですけど』というとっても可愛い絵本が刊行されました。絵は大人気の丸山誠司さん、文は高倉浩司さん。北海道出身の高倉さんはこの絵本がデビュー作なんです。キリンさんがとても可愛いんです。いろんなものに憧れて夢をみるんですが、最後に大事なものに気づくんです。心がほんわかします。
(2016.9.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
パンダ銭湯
tupera tupera・作いま、明かされる「パンダのひみつ」
キリンですけど
高倉浩司・文/丸山誠司・絵キリンだって あこがれる
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