- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんにお話をうかがいます。
有川さん、今日もよろしくお願いします。 - 有川:
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日は前回に続き、長新太さんのお話をお伺いできますか。
- 有川:
- はい。長さんは世界的にみても、とても珍しい絵本作家だと思うのです。なぜかというとヨーロッパやアメリカの絵本は、文章の説明に絵が付いているという恰好になっている。それが多いと思うんです。
- 戸田:
- はい。
- 有川:
- ところが日本の場合は、浮世絵や俳句などがあるものだから、省略や飛躍が、絵だけでなく文章のほうにもある。それに我々は民族として慣れているから、それを絵本にもってきたんですね。
文章の説明に絵がついているのが絵本だ、と思っている
方たちにとってみれば、「なにがなんだかわからないな」
という恰好になっている。 - 戸田:
- 私は長さんの作品で好きなものがたくさんあります
けれど。『キャベツくん』とか、おもしろいです。
長新太さんの絵本って、子どもたちが大好きですけれど
どんなところが受け入れられるのでしょうか。 - 有川:
- 生まれたての赤ちゃんのことを考えれば、わかると思います。赤ちゃんは、まわりのことはわからないことだらけなんですよね。
- 戸田:
- はい。
- 有川:
- 「よくわからない」ということについては、大人とは比較にならないほど慣れているんですよ。
- 戸田:
- ああ、なるほど。
- 有川:
- 世の親は「この絵本、うちの子にわかるかしら」と思ったりするものですが、子どもはわからないことに関して平気なんです。我々大人には長さんの絵本はわからないことだらけなんです。どうしてここで「トホホ」なのか。急に電信柱が歩き出したり、びっくりするようなことが描いてある。
そして自由自在な線と色彩感覚、また独特な語り口で描(書)いてあります。長さんが省略や飛躍でとばした部分を子どもたちはうめていく。その感覚、自分も参加している感覚が、とてもなじみがいいんじゃないでしょうか。 - 戸田:
- そういうことなんですねえ。
- 有川:
- 今33歳になる僕の息子がおりまして、昔『ウォーリーをさがせ』がめちゃくちゃ売れている時に、散歩しながら僕が家内に「今、ウォーリーが売れていてすごいんだ」と話していたら、小学校に入ったばかりの息子が後ろから「ねえ、ねえ、おとうさん、こうすればすごく売れる方法があるよ」と言うんです。思わず立ち止まって「どうしたらよろしいでしょうか」と聞いたんです。
『ゴリラのびっくりばこ』という絵本がありまして、息子は家にあるその絵本を「スタコラゴリちゃん」と言っていて、「ほら、あのスタコラゴリちゃんを描いた人に絵本を作ってもらったら絶対売れるよ」と言うんです。僕が「スタコラゴリちゃんは、どこの出版社から出ている絵本か知っている?」と聞くと「えー、その言い方は、絵本館だね」と。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 「それが売れないんだよ」と言うと、息子が「信じられない。あんな面白い絵本なのに」と、どういうことなんだろうと納得できない顔をしていました。
- 戸田:
- そうですか。
- 有川:
- だから、実際に絵本を子どもや孫のために買ってあげたいと思っている方にとっては、そこには深くて広い溝があるんですよ。
- 戸田:
- ほんとですね(笑)。
有川さん、長さんとの出会いというのは、どのようなものだったのですか。 - 有川:
- 「絵本を描いてください」と、家にずうずうしく行きました。それからずいぶん経ってから、長さんに「やっぱり絵本は省略というものがないと子どもたちの想像力は働きませんよね」と言ったら「有川くん、もうひとつ。飛躍ですよ。省略と飛躍」とニコニコ笑いながら言ったんです。その時の長さんの笑顔、忘れられませんね。
- 戸田:
- 有川さん、これから私はじっくり絵本を選びたいと思います。
- 有川:
- そういう作家は、長新太さん、谷川俊太郎さん、五味太郎さん、井上洋介さん、佐々木マキさん、内田麟太郎さん、高畠純さんなど、日本にはたくさんいるんです。ところが外国にはそんなにいない気がします。だから省略と飛躍というのは、日本のお家芸、伝統なんだと思います。
- 戸田:
- 有川さん、今日もとても興味深いお話でした。
また次回、絵本作家の方をお一人とりあげて、その魅力をお話いただけますか。 - 有川:
- そうですね。五味太郎さんの話をしましょう。
- 戸田:
- いいですね。ぜひお願いいたします。
今日もありがとうございました。 - 有川:
- ありがとうございました。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんにお話をおうかがいしました。
子どもたちが大好きな長新太さんの魅力が少しわかった気がします。『ゴリラのびっくりばこ』、とても気になりますね。読んでみたいなと思います。みなさんもぜひ読んでみてください。
(2016.5.10 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ゴリラのビックリばこ
長新太・作いろんなビックリばこを作ってはいたずらしているゴリラのおはなし。