- 戸田:
- 有川さん、今日もどうぞよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日は、五味太郎さんのお話を聞かせていただけるのですね。
- 有川:
- はい。五味太郎さんは福音館から『きんぎょがにげた』『みんなうんち』とか、岩崎書店から『ことわざ絵本』、絵本館からは『さる・るるる』など、400冊以上の絵本を描いていらして、外国で翻訳出版されている冊数が最も多い絵本作家です。『みんなうんち』は、アメリカで出た当初一年間で80万冊出ました。
- 戸田:
- すごいですね。
- 有川:
- アメリカは自由な国かと思うと、さにあらず。民族や宗教など色々ことがあるものですから、「うんちなんて、尾籠(びろう)な」という考えがあるのでしょうか。ところが外国の作家が描いているのなら問題はないと。アメリカのみならず日本でも、ある意味そういったことの先駆けというか、先鞭をつけたのが五味さんだと思います。
- 戸田:
- 五味太郎さんの作品は、絵もはっきりしていますし外国で受け入れられるというのもわかる気がするんですけれど。
- 有川:
- そうですね。
絵本というのは、今までにない新しい視点を提示するのがとてもやりやすいジャンルなんだと思います。
五味さんは考える、感じる、思うヒントを読み手に提示する作家です。その提示のしかたが独特なんですね。そのへんに五味さんの絵本が日本だけでなく世界的に受け入れられている要素があるのだと思います。
僕が「考える」ということは具体的にどういうことなんだろうかと考えていたことがあって、五味さんに「考えるとは、具体的にどういうことですか」と聞いたら、間髪いれず「それは、よくみるということ。それもいろんな角度からよくみる。それが出来るようになると、はじめて考えるということじゃないかな」と答えてくれました。
そう考えてみると、絵本館から『ふたりではんぶん』という絵本があるんです。姉妹がふたりでいろんなものを半分にするだけなんです。リボンを半分にするつもりが切り間違えて長さが違ってしまう。しかし、工夫することでうまく使っていく。そういったものがどんどん提示される。最後はそれをじっとみていた猫を半分に。猫を半分にするには、どういうふうにしたらいいんでしょうかね。結果をいうのはヤボですが、猫をふたりで抱っこして、はんぶんこ。そうするとものの見方がガラッと変わりますよね。 - 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- 五味さんは、そういうものの見方のヒントをたくさん描いているんです。そのうえ、なによりも言葉のリズムが素晴らしい。『ことばのえほんあいうえお』では、「あくび あざらし あそびにあきた」「いねむり いのしし いすからおちた 」「うちゅう うさぎの うんどうかい」「えんぴつ えびの えかきさん」「おんがく おんどり オルガン おぼえた」。リズミカルなので、どんどん言えるんです。それにしても「えんぴつ えびの えかきさん」、どんな絵なんだろうと思いますでしょう。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- そういうユーモラスなものもあれば、叙情的なものもあります。
「ゆめ ゆきうさぎ ゆきこんこ」、「ふえふき ふくろう よふけに ふえふく」。「ふ」だけで、6つも出てくる。 - 戸田:
- ほんとですねえ。
- 有川:
- ものの見方の提示だけでなく、言葉に対しても天才です。そのうえ、ふたつめに動物の名前が入っている。動物づくし絵本にもなっている。
五味さんは、中学生の頃に歌舞伎が好きになって歌舞伎座に通う定期券を買ってもらった。中学、高校は国立市なのにそこから定期券で歌舞伎座に通ったそうです。歌舞伎の舞台や衣装の色彩から、ものすごくたくさんのものを得たんでしょうね。 - 戸田:
- ああ、確かに。
- 有川:
- 更に、歌舞伎のせりふ「知らざぁ 言ってきかせやしょう」というような舞台の言葉からも、いろんなものを獲得したんだと思います。40年以上前、絵本作家の佐野洋子さんにお会いした時も「今、歌舞伎が気に入って夢中なの」と言っていたことを思い出しました。
- 戸田:
- そうなんですね。五味さんの作品をみる目が変わりそう。有川さん、今日も楽しいお話ありがとうございました。
- 有川:
- はい。では失礼します。
(2016.6.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ふたりではんぶん
五味太郎・作どんなに仲良しでも、はんぶんに分けるのはむずかしいもの。
ことばのえほん あいうえお
五味太郎・作子どもに読んであげたらリズムのよさにびっくり。