- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話ですか。
- 有川:
- 「子どもや孫に絵本を買ってあげようと思うのだけれど、どう選んだらいいのかわからない」という声をよくききます。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- 『間違いだらけの車選び』という本が長くベストセラーになっていました。それにならい今日は『間違いだらけの絵本選び』というのはいかがでしょう。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 一番目の間違いは「この絵本は、良い絵本か」と考えてしまうことです。良いと考えると、同時に悪いという考えが頭をもたげてきます。それより大事なことは、子どもが喜ぶかどうかで、良いか悪いかではありません。日常生活で子どもへは「良いか、悪いか」ではなく「好きか、嫌いか」でいくべきだと思います。積極的にそう考えたほうが生活にうるおいが出るし、しっかりした人にもなると思います。
- 戸田:
- ええ、そうですね。
- 有川:
- それが「良いか、悪いか」となると、あら捜しになってしまう。するとロクな人間にはなりません。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- あら捜し的な気持ちを持たない方が、家庭では夫婦の平和、家族の平和のためにもいいと思うのです(笑)。
- 戸田:
- そうですね(笑)。
- 有川:
- 二番目は「うちの子は3歳だから、4歳だから」という年齢別の考え方があります。これは何回もお話ししていますが、まったく役に立ちません。それどころか害があります。年齢別に考えるということは、つい他の子と比較することでもあります。同じ3歳児でも違うタイプの子どもはたくさんいます。だから年齢ごとに考えるのは意味がありません。
- 戸田:
- 本当にそうですよね。
- 有川:
- 学制が始まった明治以降、社会全体が「3歳は」「5歳は」「7歳は」と年齢ごとに考える大人が大多数を占めることになりました。江戸時代にはない考えでした。「子どもにもいろいろなタイプがいる」が前提とはならなかったのは残念でした。この二つの考えには大きな隔たり、溝があります。ある意味、個性的な子どもほど、学校は横並びですから学校に行けなくなってしまうのも不思議ではありません。
先生も生徒も第一に考えるべきは、「生活が学校が楽しくなるか、ならないか」です。
「この絵本を子どもが喜ぶかどうか、買って帰らないとわからない」という方は、図書館に行ってください。図書館で大人のあなたが読んで、おもしろかった絵本を借りてお子さんに読んであげるといいと思います。すると「え、うちの子、こんな絵本を喜ぶんだ」と、思いもよらないことにたくさん出合うことになると思います。 - 戸田:
- ええ、そうでしょうね(笑)。
- 有川:
- そしたら絵本はすべて図書館で借りればいいと考えずに、その子どもが楽しんだ絵本を買いに行ってください。子どもはそのプレゼントを喜ぶでしょう。漫然とプレゼントされる絵本より、喜ぶことに関してはよっぽど効果的です。お子さんの思いを尊重してあげることにもなります。我々の素晴らしい総理大臣(もちろん、これは皮肉ですが)も言っています。「長男と私は別人格」だと。そうなんです。子どもと親は別人格なんです(笑)。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 「親子は似ている」と思いがちですが、親子でも兄弟でも姉妹でも別人格だと思っていたほうがいい。
思いもよらないことを喜んだり、楽しんでいるわが子を見る。そのこと自体が楽しい。そう思ってほしいですね。何よりも大切なことは、子どもの笑顔です。
最近、友人の2歳の子が『だるまなんだ』や『DJ YOYO』を喜ぶ様子をメールで送ってくれました。これがおもしろいんですよ。
- 有川:
- 最後に「絵本の内容に深みがあるか否か」。
これはあんまり考えなくていいと思います。なぜかと言うと、絵本でもなんでもそうですが、趣味のことは研究し始めてしまうと、しまいにはつまらなくなってしまう可能性があります。理屈っぽい人になってしまう。つまり、僕のような人になってしまう危険性をはらんでいる。何よりも朗らかに、ただただおもしろいか、否かです(笑)。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- だいたいそういう重箱のスミ系の人は、つまりません。コンサートなど一緒に行かないほうがいい。「あそこのマイクロフォンの立て方は…」なんてことを言い出してすごく嫌がられます。昔の僕自身のことです。反省しています(笑)。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 先日、こんな書評の文章を読みました。
「この本を読んでいるときの幸福感、至福感は、まったく押し付けがましくない。こうした適当な優しさが小説全体を覆っているんですね」と書いてありました。
藤野千代さん作『じい散歩』という本の角田光代さんの書評です。
いい言葉だなあと思いました。「まったく押しつけがましくない、適当な優しさ」が小説全体を覆っている。いいですね。 - 戸田:
- いいですね。
- 有川:
- 押し付けがましくない優しさ、僕もそういう本が好きです。絵本もそうであってほしいものです。
- 戸田:
- 私もそう思います。
有川さん、今日も楽しいお話をありがとうございました。 - 有川:
- こちらこそ。
- 戸田:
- 来月も楽しみにしています。
(2021.3.9 放送)
だるまなんだ
おおなり修司・文/丸山誠司・絵 だれにも言ってはいけない爆笑のラスト。
DJ YOYO
ラップ絵本『DJ YOYO』の登場だYO !!