- 戸田:
- 有川さん、あけましておめでとうございます。
- 有川:
- おめでとうございます。でもなにか、あまり目出たい感じがしませんけれど(笑)。
去年は丸々一年損した感じがしますね。去年を表す一文字は「密」ということですが、忍耐の「忍」じゃないかと思います。みんな耐え忍びました。 - 戸田:
- 本当にそうですね。
- 有川:
- あんまり耐え忍んでいないのは、ステーキなどを食べ、優雅な生活を送っているガースさんたちでしょう(笑)。
- 戸田:
- (笑)。今日はどんなお話ですか。
- 有川:
- 考え方の前提になるものが違ってしまうと、考えの中身がおそろしく変わってしまう。
絵本を読んであげようと思っても「3歳、5歳、7歳児には、だいたいこんな絵本がいい」と絵本を年齢別に考える人と、「子どもといっても、人間だからいろいろなタイプがいる」と考える人では、絵本に対する考え方だけでなく、子どもに対する接し方も大きく変わってきます。 - 戸田:
- ええ。
- 有川:
- おおなり修司さんが「絵本を作っていく上では、読者の子どもたちとキャッチボールをしているような気持ちがあるんです」と、いい言葉でしょう。
- 戸田:
- いいですね。
- 有川:
- けれど「年齢別が考え方の前提になる」と、「この絵本は3歳児には無理だ」と決めつけてキャッチボールを始めようとしない大人がたくさんいます。
おおなりさんの『なぞなぞはじまるよ』が出てしばらくした時、ある書店の児童書担当の方から「有川さん、『なぞなぞはじまるよ』は、だいたい何年生くらいを対象に出版されたのですか」と質問されました。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 「え、何年生?そんなこと全く考えていないんですが……」と答えました(笑)。
たまたまでしたが、その少し前、おおなりさんと静岡市の保育園に行きました。おおなりさんが1歳から就学前の子どもさん7、8人に『なぞなぞはじまるよ』を読んだんです。冒頭「からすとうしとやぎがならんでよんでいるとり、なあに?」と始まります。 - 戸田:
- そうですね!
- 有川:
- とてもちいさな椅子に座っている子どもがいるんです。あとで聞いたら1歳代だということだったんです。その1歳代の子ども2人が真剣そのものという顔で絵本を見ているんです。そして、3〜4歳くらいの子どもが「かもめ!」と大きな声で答えているのを、その小さな子どもがじっと見ているんです。2人ともです。横から見ていたわれわれも子どもの様子に見入ってしまいました。
「何年生向けですか」という質問を受けたのは、この静岡での見聞のあとだったものですから、「1歳くらいからは大丈夫だと思います」と答えたんです。
当然、書店の担当者の方はびっくりしていました。担当者の方は「大人の自分でも答えられない、あるいは思いつかないなぞなぞだから、最低でも小学生くらいからかな」と思ったんでしょう。ところが、大人より子どものほうが頭は柔らかいでしょう。なにより分かるか分からないかではなく、心が動くか動かないかです。そうなると言葉だけでなく絵の力も大きなものになります。子どもはわからないことに対して意欲的な気持ちになるものです。そこが一番うれしいところでもあり、絵本の力が問われるのもここです。書店の方は保育園での様子を見てはいないので、僕の話だけでは「本当に絵本は年齢に関係ないんだ」と、考えが変わるところまではいかなかったと思います。残念なことです。その結果、子どもに読んであげる絵本の範囲が狭くなるのではと思うのですが……。 - 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- もう一つ、おかあさんや先生たちに承知してもらいたいことがあります。「絵」というものは、ある意味言葉を超えるところがあるということ。これは「絵が上で、言葉が下」という意味ではありません。
多くの人はなんとなく人間の気持ちのすべてを言葉で説明しきれると思っているかもしれません。ことに子どもレベルだったらと、しかし、話はそう簡単ではありません。なにもかもが言葉で説明できたら、精神科の医師もあるいは宗教も文学も必要なくなるでしょう。
ところが絵と言葉で複合的に提示されると、自分で「ハッと気づく」ことがあります。自分で「ハッと気づく」、ここが何にもまして大事なところです。媒体として絵本は、この「ハッと気づく」が得意中の得意と言っていいでしょう。
93歳で現役の指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットさんが「優れた曲に出合ったり、素晴らしい絵画や文章に出合ったとき、私はまるで別人のようになれるように感じます」と言っています。
いろんなタイプの子どもがいるのです。しかし、自分の子どもと言えどもどんなタイプか分かりません。ですから大人のあなた自身が楽しいと思う絵本を読んであげる。すると、子どもが「別の人になれる瞬間」が訪れると思います。そういう経験が子どもたちにも必ずありますから、信じてあげましょう。
くどくなりますが、考えの中心は「年齢別の絵本」などではありません。大切なのは目の前の子どもです。
くれぐれも目の前の自分の子ども、絵本を読んでもらった子どもが楽しそうにしているか否かです。 - 戸田:
- 今年もそんな絵本にたくさん出合えるといいなあと、願っています。
- 有川:
- そんな絵本を世に問うことができれば、こんなうれしいことはありません。
- 戸田:
- 有川さん、今日もありがとうございました。
- 有川:
- こちらこそありがとうございました。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
(2021.1.12 放送)
https://ehonkan.co.jp/ehon/351/
なぞなぞはじまるよ 2
なぞなぞの面白さと、絵本の楽しさをまた合体。待望の第二弾!