第56回「幸せになろうと思って……」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

先日、南米ウルグアイの前大統領ホセ・ムヒカさんを紹介したテレビを観たんです。『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ・編/中川学・絵 汐文社刊)という絵本もあります。ムヒカさんは大統領の報酬の9割を寄付して1割だけで暮らしているらしいんです。「私は貧しいのではない、ただ質素なのだ。人間にとって大事なのは、質素と自由と時間だ。無限の欲で“まだ足りない、まだ足りない”と言う人を貧乏と言う」と言っています。「“自由”というのは物があふれることではなく、時間があふれることですよ」と。ムヒカさんは来日の折、広島の原爆資料館にも行かれたそうです。

戸田:

そうですね。

有川:

ここに、その時ムヒカさんが原爆資料館で書き記した文章があります。「地球上で人間だけが同じ過ちを繰り返す。私たちは過去の過ちから学んだのだろうか」と。「学ばない、それを人間とよぶ」といいたいぐらいですね。『論語』にも「学びて思はざればくらし、思いて学ばざればあやうし」とあります。2500年、人間は成長していない。

戸田:

学んでいないですよね。

有川:

10年近く前にあれだけの大震災に伴う原発事故が起こっても、われわれ日本人は何を学んだのかと思います。
ムヒカさんには、他にもなかなか含蓄のある言葉があります。「私たちは発展するためにこの世に生まれたのではありません。この惑星に幸せになろうと思って生まれてきたのです」。まったくその通りです。「惑星」という視点がいいですね。雄大な気分になって、世界中の人々が心に刻まなければならない言葉です。

戸田:

そうですね。

有川:

ムヒカさんがおっしゃっているように、我々は今まで「成長する・発展する」ということばかり、やってきた。成長や発展の前に「幸せになるために」やることがある。何をやったらいいのか、あるいは何をやめねばならないのか。人は今、それを決断しなければならないところにきています。

戸田:

幸せとは、心の豊かさでしょうか。ムヒカさんは心が豊かな方ですね。

有川:

日常生活の些細な出来事がうれしくなる、ちいさくともそこに幸せは宿っているのだと思います。「幸せとはなにか」ということを一度も考えることなく過ごす人生。幼少期から頭にあるのは偏差値とお金、それでは幸福の物差しが一つだけになり、幸せを身近に感じる余裕は生まれない。日本社会にゆとりが欠ける原因がここにあるのではないでしょうか。大事なのは生活を楽しむ気持ちです。楽しくないことは極力避ける。あるいは積極的に逃げる。
生活に楽しみや趣味を持つ、そこに「幸せの芽」がある。どこまでいっても絵本は趣味です。人生における趣味の第一歩に絵本がなってくれるとうれしいですね。
それにしても、ムヒカさんの笑い顔は可愛いですよ。愛嬌のある笑顔、うらやましい。

戸田:

ええ、本当に!

有川:

感激しやすい体質なので、テレビを観てすぐ『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』という絵本を買いに行きました。テレビの映像と相まってなかなか心あたたまる絵本でした。

戸田:

心あたたまるって、いいキーワードですね。

有川:

この絵本の絵は中川学さんという方なんですが、ムヒカさんのしっかりした人柄もチャーミングな表情もとてもよく描かれている。京都のお寺のご住職だそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

住職をなさりながら絵本を描いているなんて、いいですよね。なかなか洒落た人なんでしょう。

戸田:

本当ですね。

有川:

「仕事をやりながら絵本」といえば、あべ弘士さん。あべさんは、今や有名になった旭川の旭山動物園の飼育係だったんです。まだ有名になる前の旭山動物園の一年をつづった絵本が『どうぶつえん物語』です。動物への飼育係ならではの視点にあたたかいものが感じられます。当時は冬の動物園は休園でした。

戸田:

昔は休園だったのですか!

有川:

そうなんです。でも、動物の世話は毎日しなければならないので飼育係に休みはなしです。その休園の動物園に「遊びにおいでよ。案内してあげる」と言っていただき、家族で行ったことがあります。

戸田:

いいですね、うらやましい。


あべ弘士・作『どうぶつえん物語』

有川:

「仕事をやりながら絵本」という人が、もう一人います。おおなり修司さんです。おおなりさんは、俳優や声優をやりながら絵本も手がけています。

戸田:

おおなりさんの『福助はみた』、大好きです!

有川:

最後のページがいいでしょう(笑)。

戸田:

いいですね。


おおなり修司・文/きむらよしお・絵『福助はみた』

有川:

ぜひ手にとってみていただけると嬉しい。

戸田:

おおなり修司さんは福山出身の絵本作家さんですしね。

有川:

みなさん、ムヒカさんだけでなく、おおなり修司さんもよろしくお願いします(笑)。

戸田:

(笑)。有川さん、また楽しい話を聞かせてください。今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそありがとうございました。失礼します。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。
有川さん初めてのご出演が2016年の4月でしたから、もう4年半になります。月に一度、楽しい話をしてくださっていますが、その内容が絵本館HPの「編集長の直球コラム」で連載されています。「ラジオ版絵本の力」、最新記事は今年3月放送の第47回「橋を渡す」。私も振り返って懐かしく読ませていただいています。
絵本館HPには、新刊の情報もあります。
おおなり修司さんの『福助はみた』も、ぜひチェックしてみてくださいね。
(2020.12.8 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
どうぶつえん物語
出産があったり、予防注射があったり、喧嘩したり・・・四季折々の飼育日記です。
福助はみた
福助はそのとき何をみたのか?!
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