第50回「作風は違うのに、よく似ている二人」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

長新太さんと五味太郎さんは、実は近い親戚だったのではないかと思うほど似ているところがあります。多くの人は「五味さんと長さんは作風が違う」と思っています。もちろん絵のスタイルはまったく違います。ところが考える方向は同じだったんです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

五味さんが『みんなうんち』を考えた時に、長さんも同時に『おなら』を作っています。五味さんの『うみのむこうは』は水平線の向こうにいろんなものがみえる絵本ですが、長さんの『ちへいせんのみえるところ』は、地平線にいろんなものが次々でてきます。五味さんの『いっぽんばしわたる』は、一本の橋をいろんな動物が渡り、最後は男の子が元気に出てきます。長さんの『へんてこへんてこ』は、橋をわたる動物たちのからだがどんどん伸びてしまう。二つの作品ともに動物たちが橋をわたっていきます。
それぞれの作品が、ほぼ同じ時期に出来ている。二人はどうして同時期に思いついたんでしょうか。作風は違うと思われている二人ですが、考えは同じ方向をむいていたんですね。ある意味同じようなタイプだったんですね。

戸田:

ええ、なんか違う感じですのにね。


五味太郎『うみのむこうは』

有川:

どちらかというと、五味さんはアイデアがすごくて色彩がチャーミング。落ち着いた色を使うのに、明るく可愛らしさも表現されている。色の使い方と形の切りとりかたが独特です。文にはリズムがあってテンポがとてもいい。声を出してみればわかります。
長さんは、「これは子どもが描いたの?」と思われるような絵で、線と色彩が実に独特で魅力的です。その上、文章は淡々としたなかにとぼけた味わいをもっている。
有名な話ですが、ピカソが80歳のころ「子どもの絵みたいですね」と言われ、「やっと、その域まで来たか」と言ったそうです。
多くの人は「子どもみたいな絵」というと「稚拙な絵」と思いがちです。でもピカソや長さんは、幼い子どもが描く「なににもとらわれていないノビノビとした絵」をすごいと思っていたんですね。

戸田:

ええ。

有川:

ピカソは幼少のころから修練に修練をかさねてきた人ですから、晩年に至って「やっとここまで来たか」という思いだったんでしょう。その思いは長さんも同じですね。
絵描きでも美術学校に行かず、すばらしい画家になった人はたくさんいます。山下清さんはもちろんですし、棟方志功さんなども学校に行かず自分なりの自由な作風を獲得した人たちです。絵本作家にもたくさんいます。また音楽の世界でもそうです。武満徹さんなどが代表的な人です。文学者のほとんどは独学です。そういった専門の学校に行かずとも、すぐれた仕事をなしとげた人はいくらもいます。
僕は、長さんがどこの学校を卒業されたか知りません。以前、長さんに「どこの小学校だったかくらい、教えてください」と言ったら、「有川くんは、そうやってなんでも聞きたがるからねえ」と笑っていました。

戸田:

(笑)。

有川:

日本人は明治以降、学校神話が強くなってしまい、「学ぶといえば、すぐ学校」となってしまった。その結果、なんでも先生に習おう習おうと考え、受け身になることがあたりまえになってしまった。
しかし子どもたちはもっと能動的に「自分からやるぞ」という気持ちになってほしいものです。大人が邪魔をしなければ多くの子はそこそこのところまで行くのではないかと思います。
子どもがその気になるまで待ってあげるのが肝心だと思います。もし待てなければ、ちょっかいを出すより無関心でいるほうがまだましです。ほっておく、あるいはかまわない、ということが大切です。昔の親は日常のべつ忙しかったので子どもにかまっている暇がなかった。大人がかまわなければ子どもの自立性はおのずから育っていくものです。豊かになって今なにを失ったのでしょう。

戸田:

そうですね、それが「心のゆとり」にもつながりますね。

有川:

絵本はそうした「心のゆとり」を楽しむのにむいていると思います。

戸田:

確かに。そんな素敵な絵本をたくさん、私たちに紹介してくださいね。

有川:

はい。

戸田:

有川さん、今日も楽しいお話をありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
(2020.6.9 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。


エフエムふくやま 戸田雅恵さん

うみのむこうは
五味太郎・作自然と想像する力がわいてくる、こころがふるえる、そんな絵本です。
いっぽんばしわたる
五味太郎・作絵を読むことになる絵本です。
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