- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- はい、よろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話でしょうか。
- 有川:
- 以前、『変なお茶会』が1歳のお子さん、それも何人もの1歳のお子さんに喜ばれているという話をしました。
- 戸田:
- ええ、佐々木マキさんの絵本、楽しいですよね。
- 有川:
- ところが「この絵本は、大人向けでしょう」と言われることがよくあります、と言うより100 人が100人そう言います。
- 戸田:
- そうなんですか。
- 有川:
- そんなふうに考えてしまうのが、ごくごく普通です。絵本館を始めた頃の僕もそうでした。ところがお話したように現実は異なり小さな子どもでもよろこびます。なぜ、人間はすぐ思い込んでしまうのでしょう。難しい単語が使われていると「これは大人の絵本に決まっている」と考えてしまう。ところが子どもにとって回りは分からないことだらけですから、難しい単語にビックリはしません。分からないに緊張しないのが子どもです。現実と思い込みには大きな乖離があります。子どもと絵本のことでさえ、こんなありさまなんです。絵本だけでなく、あらゆるジャンルに思い込みはあふれている、と思ってもいいのではないでしょうか。
「考える」ということは「よくみること」。昔、五味太郎さんに教えてもらったことがあります。それもいろんな角度からみれば、ものごとを考える人になれる、と。もっと広く考えると、五感すべてを使って感じとること、そういった意味でしょう。
その反対はどういうことか。考えることがうまくできない人には、どんな要素がそなわっているのか。
これは以前も話しましたが、日常に「ぜったい」という言葉を使う人ではないかと。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 子どもは「ぜったい〇〇だからね!」と、よく言います。でも、僕は自分の子どもには小さい頃から“ぜったい”禁止令を出していました。
- 戸田:
- 「“ぜったい”って言ってはだめだよー」って?
- 有川:
- ええ。「ぜったい」といえるのは、「人間は生まれたら死ぬ」ということぐらいで、それ以外に使えるケースはほとんどない。そう考えていいと思います。でも、使ってしまう。するとついついクセになってしまう。クセになると、それが身に付いてしまいます。すると、「なぜかな」「どうしてなんだろう」ということを思わない人になってしまう。
そういった点からも、子どもがものごとをよく考えるきっかけになれれば、と思いながら絵本を作っています。 - 戸田:
- はい。
- 有川:
- 今、作っているのは回文絵本『どっちからよんでも』です。
前から読んでも後ろから読んでも同じ文、それを回文といいます。「あなだなあ」「なすおすな」を読むと確かに回文になっています。前から読んでも後ろから読んでも同じ、ただそれだけだと言えばそれだけ。ところが、これらの回文に絵がつくと含みが生まれます。頭の中が動き出す。ここに絵本の持つ力がかくされているのではないでしょうか。
感じとる絵本、受け身ではなく自分の力で感じとる。それこそ絵本の力です。
本村亜美・文/高畠純・絵『どっちからよんでも -にわとりとわに-』
- 戸田:
- ええ、たしかに。
大人の私たちがみるよりも、子どもたちはもっと想像力を豊かにして、ひとつの絵をみているかもしれませんね。 - 有川:
- 今、戸田さんが言った「みているかもしれない」という言葉、すごくいいと思います。「かもしれない」という言葉には、含みがあり疑問が残っています。そういった考え方がものの見方を拡げていく素になるのだと思います。
- 戸田:
- そう考えると「想像する」って楽しいですね。
- 有川:
- 想像力、企画力というものは、頭の中をちょっとフラフラ、フワフワ状態にしているといいと思うんです。そよぐ風に揺れる風船のようにフワフワ、とらわれずただよってフラフラ。心がそんな状態だとパッとひらめく。
- 戸田:
- ああ、そうかもしれません。
- 有川:
- そのフラフラ、フワフワ状態でいるのに格好の絵本があります。高畠純さんの『おどります』。みんなフラフラしています。フラフラ、フワフワでいるためには「ぜったい」という考えは、ものすごく邪魔になります。
- 戸田:
- 確かにそうですね。常に意識したいと思います。
今日もありがとうございました。 - 有川:
- ありがとうございました。
- 戸田:
- 次回もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。絵本館からの新刊をご紹介します。
先ほど、有川さんのお話にも登場されました五味太郎さん。「考えるということは、よくみること」とおっしゃったそうですが、その五味太郎さん、やっぱりよーく観察されて楽しい絵本を手がけられました。
タイトルは『とりあえずごめんなさい』。
- 五味太郎さんからのメッセージです。
とくに失敗したわけでもないんですけど、
とくに悪気があるわけでもないんですけど、
なぜかとりあえず、ごめんなさいをしておいたほうがよさそうなこと、この世には多々あるものでして、ま、それがなかなか味わい深いのですよね、って言うような絵本です。
とりあえず、お詫びかたがた、お楽しみください。
- 五味太郎さんの絵もとっても楽しいです。ぜひ、親子で読んでみてください。絵本館からの新刊、五味太郎さんの『とりあえずごめんなさい』。絵本館のHPもチェックしてみてくださいね。
(2019.5.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
変なお茶会
佐々木マキ・作世界中からおかしな人たちがおかしな乗り物で集まってきます。
どっちからよんでも -にわとりとわに-
どこか力の抜けた回文と、味わい深い絵が合体して楽しい絵本になりました!
おどります
高畠純・作気分はすっかりメケメケフラフラ気分!ついつい踊りだしたくなる絵本。
とりあえずごめんなさい
五味太郎・作あれれれ、なんだか変?とりあえず「ごめんなさい」!