奇想天外な絵本 2

奇想天外な絵本といえば、長谷川義史さんの『いいから いいから』シリーズ。
どんなとんでもないことがおこっても「いいからいいから」と、おおらかに受け入れるおじいちゃん。その主人公のおじいちゃんのところに次々とやっかいなことがおこります。
かみなりの親子がおへそを取りに来る、旅館でおばけが身の上相談にあらわれる、貧乏神に住みつかれる、おちこぼれ忍者がころがりこんで来る、大阪弁を話す宇宙人が飛来する…。
よくもこんな「奇想天外な設定」を次々考えだせるものだと、長谷川さんから原稿を見せてもらう度に感心します。


長谷川義史『いいから いいから』


長谷川義史『いいから いいから2』

それにしても、子どもたちは奇想天外な絵本が好きですね。読者カードを読むたびにそう思います。そのうえ、講演会で長谷川さんが『いいから いいから』を読んだときの子どもたちの笑顔。おもしろがっている子どもたちの気持ちが手にとるようにわかる瞬間です。

長谷川さんの絵本のベースは落語だと思います。それも上方落語。
長谷川さんは大阪出身、子どもの頃から上方落語に親しんできた。ご本人いわく「物心ついた頃から、テレビをつけると寄席中継をやっていた」とのこと。上方落語に親しみ、吉本や松竹新喜劇など関西の笑いのなかで育ってきたのだと思います。
50〜60年前だと大阪だけでなく東京でも、テレビで寄席や劇場の中継をよくやっていました。東京では浅草「デン助劇場」、大阪では、渋谷天外・藤山寛美の松竹新喜劇。劇場中継ではなかったけれど大村崑・芦屋雁之助の「番頭はんと丁稚どん」。
テレビのおかげで関東の人間も、関西の笑いを体感していました。そういった地ならしがあったので、今の吉本の隆盛があるのでしょうか。
大阪の喜劇は、なんといってもボケとツッコミ、主人公だけでなく脇役も淡々と暮らしているだけなのに、だんだんとおもしろさがかもしだされてくる。大阪独特のちょっと引いた笑い、商人の町ならではの「自分を下にもっていってボケて笑わす」。そんな手法によって、商人の町に暮らす庶民の生活が笑いとともに描かれ、あたたかい気持ちにつつまれていきます。長谷川さんの笑いも、そんなところからきているのだと思います。

五代目の柳家小さん師匠が、弟子のさん喬さんに「落語ってのはな、年寄りも子どもも若い人も、同じように笑い、涙するものだ。人の考えを押しつけるのは落語ではない。おまえの噺は無駄が多い。それじゃあ何も伝わらない」と。
そこで、さん喬さんは「確かに山の美しさといっても、人それぞれに思いは違う。それで事細かな描写はやめて『ごらんよ、きれいな山だねえ』と話すようにした」とのこと。
絵本にも通じる話です。
長谷川さんも「文も絵も過剰になると、どんどん想像する部分が奪われてしまう。ちょっと控えめにして“足りないところ”を読者の想像力によって大きくするのがいいと。文章は極力省くだけ省き、絵でわかるところに文は入れない」と言っています。
いいですね。そんな絵本が理想です。
文章はなるべく簡潔に、その簡潔な文に絵を付ける。控えめで足りないところのある文と絵が互いにキャッチボールをする。キャッチボールをしている場所は読者の頭のなかです。このキャッチボールのことを想像力というのではないでしょうか。ですから、想像力は省略から生まれるものです。
奇想天外のおもしろさの中に、絵本としてのこのような基本がしっかりあるので、長谷川さんの絵本は、多くの読者の心をとらえることができるのでしょう。

長谷川さんいわく「江戸は“オレをだれだと思ってやんでぃ!”だけど、上方は“わし、アホですねん”と自虐的なところがある」と。
また、ある人が長谷川さんに「東京では先生、先生と言ってくれるのに、大阪にきたら誰もそういう扱いをしてくれない。そういう態度で来ると“この人、先生やで、先生やで〜”と馬鹿にされるから怖い。大阪にはそういった権威が通用しないんですね」と笑っていたそうです。
関西と関東、いろいろな違いがあります。おもしろいですね。

『いいから いいから』は、上方落語がベースになっているおもしろさです。
江戸落語は「粋」や「イナセ」といった心持ちのものですが、長谷川さんは、「粋」や「イナセ」が、こちょば恥ずかしいそうです。
この「こちょば恥ずかしい」ところに、長谷川さんの絵本の神髄がかくされているのでしょう。

なにがあっても「いいから いいから」と包み込むおじいちゃん。ひょうひょうとしたその様子に、権威や威厳という言葉はまったく似合わない、そんな人柄があらわされているように思います。
長谷川さんは、こんなおじいちゃんになりたい、あるいは憧れているのだと思います。

いいからいいから
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