第32回「考える人への第一歩とは」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

この前、おもしろいテレビを観たんです。
熊本県に県立大津高校という学校があるそうです。
県立ですから、今年甲子園で大活躍した金足農業高校と同じですね。

戸田:

はい。

有川:

その大津高校はサッカーが強い。長いことサッカーの全国大会の県代表になっている。でも県立ですから、有力な選手をスカウトしてくるというわけにはいきません。
ところが、現在プロのサッカー選手のうち、20何名がその大津高校の出身で、全日本のメンバーには2名も入っているそうです。

戸田:

それは、すごいですね。

有川:

僕が嬉しくなってしまったのは、彼らの練習時間です。練習は一日100分と決まっている。それ以上はダメだそうです。

戸田:

100分だけ?

有川:

根性信奉者の監督だったら、3時間も4時間も、暗くなっても練習をさせるでしょう。

戸田:

ええ。

有川:

100分だと時間が短いので、みんなが考える。能率よく練習するにはどうしたらよいか、11人がどうネットワークをとりあってプレイするか。監督の指示に従うだけでなく、また指示が出てくるのを待つのではなく、みんなそれぞれが考える。自分自身で考え行動する。考えたらすぐ行動。それは日常生活におけるクセのようなものです。そんなふうに体が動くようになれば本物でしょう。ところが、集団みんなが指示待ちをやっていると惰性に慣らされて、考えなくなる。ただ一生懸命やればいい。それも見ための一生懸命を大事にする。その結果、疲れ果ててみんなボーっとしてしまう。考えたらすぐ行動というクセはつかない。

戸田:

ええ。

有川:

大津高校のサッカー部でも朝練はあるそうです。ただし、それは自主練習だそうです。
「自分は足腰が弱いからタイヤを引っ張って走るぞ」とか、一人一人個人が考えてやるそうです。
また大学9連覇を果たした帝京大学ラグビー部のヘッドコーチが同じような話をしていました。ヘッドコーチ就任時、自分が学生時代に受けたようにスパルタ式で学生にのぞんだそうです。ところが、いくらやっても成績はあがらない。悩んだ末に方針を変更、学生個人の意思を尊重することにした。全員練習の時でもおかしいと思ったらグラウンドの外にでて2人〜3人で話しあうようにさせた。チーム全員が考えて動く。その動きが有機的なつながりをもつようになった結果、9連覇。

戸田:

それだけ生徒を信頼しているということですね。

有川:

そうですね。日本の多くの学校や職場では今でも根性や気合、ガッツといった精神論が蔓延している。戦争までも精神で勝てると思い込む始末。反対に学校も職場もたがいの信頼関係の上にあれば、もっと明るく風通しのいい社会になるんじゃないかなあと思います(笑)。

戸田:

本当ですねえ(笑)。

有川:

常に自分で考える。そのために何が必要かといえば、選択です。面白いから、楽しいから選ぶ。色んな角度から選ぶ。そうやって選んでいくうち次第に考える力はついていくものです。
絵本も子どもが自分で選ぶ。そうすれば絵本が考える人への第一歩に貢献することになるでしょう。選ぶことがたのしくなればおのずと自主性はそだっていくのです。

戸田:

そうですね。ぜひ、絵本は子どもたちに選ばせてあげてほしいですね。

有川:

書店で図書館で子どもが自分で絵本を選ぶ。寝る前に読んでもらう絵本も子どもが自分で選ぶ。すると受け身ではなく自主的な心が生まれてくると思います。
そういえば、『絵本のちから』の改訂版を作りました。

戸田:

有川さんのお話にもありました『絵本のちから』改訂版。今年創立40周年を迎えた絵本館さんの思いがいっぱいつまった冊子です。有川さんが出会った絵本作家のみなさんとのエピソードも興味深いです。
長新太さんの「ユーモアが月の光のようにふりそそぎ、絵本を読む人の頭をやわらかくしてくれる」いい言葉です。
そんな絵本のちから、感じてくださいね。
有川さん、来月も楽しみにしています。ありがとうございました。

有川:

はい、こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
(2018.11.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ガイド「絵本のちから」
2018年に40周年を迎えた絵本館が、これまでにつくってきた絵本の制作秘話や楽しみかたなどをご紹介しています。
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