第17回「楽しいことをみつけていくのが人生」

戸田:

絵本館代表有川裕俊さんにお話をお伺いします。有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

先日、私が主催している読書会があったんですが、ある参加者さんが『パンダ銭湯』を持ってきてくださって大盛り上がりでした(笑)。

有川:

それはうれしいですねえ。

戸田:

今、上野動物園のパンダちゃんも注目されていますしね。やっぱり、あの絵本楽しいですね!

パンダ銭湯


tupera tupera『パンダ銭湯』

有川:

本当に楽しいでしょう。楽しいといえば、もう亡くなられましたが丸谷才一さんが「本を読むのは楽しむのが第一。楽しくなければ読むのをやめたほうがいい」と言っているんです。
これは絵本でも普通の読書でも、みな同じです。ところが日本では、多くの大人が楽しいを二番目、三番目と考えています。それが教育にも持ち込まれている。

戸田:

ええ。

有川:

音楽でもなんでも、みんなそうです。
「楽しいばかりでいいのか」という考え方は、つまらないと思う。
僕の両親の郷である鹿児島では、「男は一年に一度、片頬だけ笑えばいい」などと言われていた。全面的に笑うのに2年かかる(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

僕は、自分にとって楽しいもの、愉快になれるものを見つけていくのが人生じゃないかと思っています。大事なのは、自分にとってです。

戸田:

はい。

有川:

福岡に住む司書の方が「司書を始めたころの私は、長新太さんの『キャベツくん』をあまり好きではなかった、というか何がなんだか分からなくて、この人は何を言いたいんだろうと思っていました。でも、子どもたちがあんまり喜ぶものだから、何度も何度も読んであげていたら、ある日突然、目からウロコが落ちたというか何かがはじけたみたいになって、その日から長新太さんの絵本すべてが輝いてみえるようになりました。子どもたちは、こんな心で長さんの絵本を読んでいたんだと、遅ればせながら実感したんです。その日の前と後では絵本を見る目が変わりました」と話してくれました。それにしても「変わらない」ままの人もたくさんいる。もったいないですね。
僕も同じような経験があるんです。高校生の時に、母がトランジスタラジオのちょっといいのを買ってくれた。そのラジオで、初めてFM放送を聴きました。バッハの平均律クラヴィーア曲集が流れた夜、戦慄を覚え鳥肌が立ちました。目からウロコというんでしょうか。
そして、その数週間後に「音楽の花束」という番組でモーツアルトのアイネ クライネ ナハトムジークを聴いたんです。その日から、バッハはもちろんモーツアルトのすべてが好きになってしまい、「これからの人生、楽しくなるぞ」と大喜び。ところが、それ以降同じようなことは起きませんでした。

戸田:

(笑)。

有川:

音楽、絵本、文藝、能、歌舞伎、落語、映画など芸一般に、そういうことがおこるでしょうね。
ですから、先ほどの『パンダ銭湯』は楽しいですね」と言っていただけるのは光栄だし、うれしいですね。

戸田:

ええ。

有川:

つい大人は「大人の自分がおもしろいと思ったのだから、子どもには無理だろう」と思いがちです。そう思うのも不思議ではないのですが、もっと気楽に「自分がおもしろかったから、子どもと一緒に楽しもう」と思ってもらえるといいと思います。

戸田:

そうですね。大人になると心から楽しめることが、だんだん減ってきてしまいそうですが、出会いたいですね。

有川:

だから生活が積極的に楽しいということを肯定していけばいいと思います。

戸田:

私は、有川さんから月に一度、こうしたお話をお聞きできるのを楽しみにしています。有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
絵本館からの新刊情報をひとつお知らせいたします。
大人気広瀬克也さんの妖怪絵本シリーズの第7弾が出ました。シリーズ累計15万部売れているんです。子どもたちは大好きですね。今回は『妖怪美術館』。ユーモラスで愛嬌たっぷりの妖怪たちが出てきますよ。ぜひお手にとってみてください。

(2017.8.8 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
パンダ銭湯
tupera tupera・作いま、明かされる「パンダのひみつ」
妖怪美術館
広瀬克也・作今日はガンマー画伯の展覧会。
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