第14回「参加する絵本」

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いします。
有川さん、今日もよろしくお願いします。

有川:

よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話でしょうか。

有川:

僕は、ずっと俳句みたいな気持ちで絵本を作っていければいいなと思ってきたんです。
みなさんがよくご存知の
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
「荒海や 佐渡によこたふ 天の川」。
芭蕉さんは、説明なんてしていないでしょう。

戸田:

ええ、でも情景は浮かびますよね。

有川:

そうです。考えてみると、日本人はこういったことに親しんできた。

戸田:

なるほど。

有川:

たった17文字で情景や風景を思い浮かべるということに、すごく慣れているし楽しんできた。珍しい国民だと思います。
それを僕は絵本で、目指しているんです。

戸田:

そうでしたか。

有川:

たとえば、五味太郎さんの『みず』という絵本。
「ちいさなみず」と言ったら、何を思い浮かべますか。その反対に「おおきなみず」では、何でしょうか。
「ちいさなみず」というページでは、女の子の涙。

「おおきなみず」は海を眺めている少年。「しずかなみず」は、山あいの湖、反対の「おどるみず」は公園の噴水が描かれている。「よごすみず」では、子どもが元気にどろんこ遊びをしている様子、「あらうみず」では、洗濯・シャワーの絵。
では「そだてるみず」は、どんな絵だと思いますか。

戸田:

お花を育てるみず?

有川:

そうです、じょうろからみずが出て植物を育てている様子が描かれています。それが育ったのでしょうか、「あまいみず」で、すいかの絵。次はすいかを食べて「げんきなみず」で子どもが汗をかいて走っている絵、そして、犬が足あげておしっこしている絵で、おしまい。

戸田:

楽しいですね!そうやってイメージをふくらませて。

有川:

そうなんです。読んでもらっている子どもたちが、ほかにある「みず」を自分なりにいろいろ想像したり自分なりに考え、絵本に参加していく。そこが五味さんの絵本づくりのミソです。

戸田:

そうですね。

有川:

森羅万象をみたり、きいたり、かいだり、味わったり、さわったり、五感を使っているだけで日々学んでいるわけです。

戸田:

ええ、そういった学びは、しっかり自分のものになっていきますね。

有川:

そう思います。実感を伴って感じ入ったら、学んだということになるんでしょう。「知る」と「学ぶ」の違いです。

戸田:

確かにそうですね、それと優しい心、思いやりの心とかを絵本からも感じとれるのじゃないかと思います。

有川:

それを自発的に自分から感じとって、「優しさ」や「思いやり」を自分なりに実感しないと学んだことにならないでしょうね。そのために作者は、子どもが考え感じるように、わざと「ちょっと足りなく」する。その足りない部分を子どもは、うめる。子どもの想像にまかせる。そうすると自ら考え感じるということが生まれてくる。自主性の芽ばえですね。

戸田:

有川さん、今日も興味深いお話をありがとうございました。また来月もよろしくお願いいたします。

有川:

はい、こちらこそよろしく。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をおうかがいしました。
有川さんのお話をお伺いするようになって、私も絵本の見方が変わったというか、もっともっとその楽しみ方がわかってきました。
先日ご紹介させていただいたおおなり修司さんと高畠那生さんの『フワフワ』も楽しめますので、ぜひ親子でみていただきたいと思います。
(2017.5.9 放送)

*関連図書で、「ひ」という絵本もあります。ぜひ合わせてお読みください。

2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
みず
五味太郎・作「みず」をいろんな角度から描きました。
五味太郎・作「ひ」というものを客観的に描いた絵本です。
フワフワ
おおなり修司・文/高畠那生・絵フワフワと舞うダチョウの羽根。それが、すべての始まりだった!
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