第13回「絵本もよろこんでくれる」

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いします。
有川さん、今日もよろしくお願いします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

最近読んだ本に、欧米の人と日本人とでは基本的な体質の違いがあるそうです。それがすごくおもしろかった。日本ではメタボの基準の一つに、男性はウエスト85㎝、女性は90㎝を超えるとメタボだと言われています。

戸田:

ええ。

有川:

ところがアメリカでは、男性のメタボの基準はウエスト102㎝なんです。

戸田:

(笑)。

有川:

メタボは皮下脂肪ではなく内臓脂肪が問題だそうで、欧米人は内蔵脂肪が付きにくい。それで102㎝でも大丈夫だそうです。そして、酒を飲んで顔が真っ赤になる人は少ししかいない。日本人に多い真っ赤になる人は、喉頭がん、食道がんになりやすいそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

ええ。だから顔が赤くなる人に無理やりアルコールを飲ませてはいけません。いずれにしても無理やりはいけませんね。下品です。
これと同じく日本と欧米との違いが、絵本をとりまく事情でも言えます。
欧米では字を読めない大人がたくさんいます。以前、フランスのデータをみたことがあるんですが、文字を読めない大人が10%以上でした。

戸田:

結構いらっしゃるんですね。

有川:

それは欧米の文字のありかたや移民など、いろいろな問題があるからだと思いますが。

戸田:

ええ。

有川:

欧米の場合は、絵本の役割として「字を読めるようにしたい」という願いが込められている。だから読み聞かせということが強く出てくる。ところが日本の場合、字を読むことに関しては昔から困っていない。
今から30年、40年前、日本の絵本が欧米で翻訳されるとき、ストーリー性のしっかりしている絵本でなければダメだと言われていたんです。

戸田:

ええ。

有川:

読み聞かせに向かないと、あちらの出版社が飛びつかない。ところが、ここ20年ですっかり事情が変わりました。ストーリーに固執せず、絵本ならでのおもしろさを追求した絵本が喜ばれるようになってきたのです。なにしろ子どもは、おもしろくなければ長続きしませんでしょう。欧米も日本もそこは同じです。多くの大人が思っている以上に「おもしろい」は大事です。
しっかりしたストーリーどころか、長新太さんの『ごろごろにゃーん』(福音館)や、五味太郎さんの『ぽぽぽぽぽ』『るるるるる』(偕成社)、谷川俊太郎さん文・元永定正さん絵の『もこ もこもこ』(文研出版)、元永定正さんの『ころころころ』(福音館)など、「音楽絵本」とでもいうべき絵本も続々生まれてきました。
「音楽絵本」というのは、音楽のようにリズミカルな心地よさがある絵本のことです。ストーリー性や意味は言葉のうえでは隠されている。僕が勝手に「音楽絵本」と呼んでいます。別名「あなた、なにを言いたいのですか」絵本(笑)。
こういった絵本によって「絵をみる」だけではなく「絵を読む」たのしみがひろがった。読者である子どもたちが参加し能動的になる絵本が生まれてきました。自分なりに考える絵本の誕生です。
さらに、絵本のたのしみ、醍醐味がひろがってきたと思っています。

戸田:

そうですね。

有川:

ところが「絵本で知識を」となると、子どもはどうしても受け身になる。「ためになる」、「役立つ」となると、絵本がどうしても教材的になってしまう。
受け身ではなく、反対に能動的に「自分の心が動いている」と実感できれば、シメタものだと思います。「親孝行しよう」、「やさしくしよう」、「ともだちとなかよくしよう」とか、そういうことは人から言われて獲得するものではなく、自分から思い感じとって初めて身に付くものです。

戸田:

そうですね。

有川:

戦前の教育勅語のようなものがダメなのは、命じてばかりで子どもの主体性が芽生えてこないところです。
たとえば、五味太郎さんの『みんながおしえてくれました』という絵本では、自ら学ぶ姿勢の心地よさが描かれています。よーく見ると学びの対象はいくらでもある。森羅万象が学びの対象だということがみえてきます。


五味太郎「みんながおしえてくれました」

また、『ことばのあいうえお』(岩崎書店)は「なるほど、これだと“あいうえお”だよね」ということがよくわかる絵本です。
「あ」は、鳥に帽子をとられ「あっ!」
「い」は、頭に石がぶつかり「いたいっ!」

戸田:

(笑)。

有川:

このように、自然にわいてくる実感を絵的に表現している。これこそ「絵本」です。

戸田:

本当にそうですね。

有川:

本を読む楽しさも自然に身について、発見のよろこびがひろがっていくのではないかなと思います。

戸田:

ええ。絵本もよろこんでくれそうですね。

有川:

絵本もよろこんでくれそう、いい言葉ですね。

戸田:

絵本に命が吹き込まれるような、そんな感じがしますね。

有川:

僕は戸田さんが喜んでくれれば、それでいいです(笑)。

戸田:

ありがとうございます(笑)。

有川さん、今月もありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をおうかがいしました。
絵本館から待ちに待ったおおなり修司さんの新刊『フワフワ』が刊行されました。絵は高畠那生さんです。これこそ、有川さんがおっしゃる音楽絵本ですね。

(2017.4.11 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
みんながおしえてくれました
五味太郎・作よく見る力と好奇心が子どもを育てていくのですね。
フワフワ
おおなり修司・文/高畠那生・絵フワフワと舞うダチョウの羽根。それが、すべての始まりだった!
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