第12回「この絵本は子どもがすごく喜びます。でもお母さんは嫌がります」

戸田:

今日も有川裕俊さんにお話をおうかがいします。
有川さん、よろしくお願いいたします。

有川:

よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

この前「一見なんの役にもたちそうにないけれど、なぜか子どもの心をつかむ絵本」についてお話をさせてもらいましたね。

戸田:

はい、気になっていました。

有川:

それに、またおもしろいことを言う本屋さんがいたんです。「この絵本は子どもがすごく喜びます。でもお母さんは嫌がります」って(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

でも話すと、たいていのお母さんは買っていってくれるそうです。

戸田:

それはうれしいですね!

有川:

そうなんですよ。うれしいですね。その話を作家の方に伝えたら、すごく喜んでくれました。
子どもはすごく喜ぶけれど大人は嫌がる、これは絵本の特徴の一つだと思います。なにしろ絵本は文だけでなく絵もつかえます。ですから擬態語、擬声語だけで成り立ってしまう絵本すら、あります。絵がなく擬態語・擬声語だけだったら展開は何がなんだかさっぱり分かりませんでしょう。ところが擬態語・擬声語だけの絵本でも子どもはよろこぶし楽しんでいる。しかし絵がついていても大人は「この作家は何を言いたいんだ」という気持ちになってしまう。
いま『フワフワ』という絵本を作っています。文章は、おおなり修司さん、絵は高畠那生さんです。
この絵本、「フワフワ」とか、「シュポッ」とか、「ダダダダ〜」とか、そんなことしか言わない(笑)。

戸田:

(笑)。


おおなり修司・文/高畠那生・絵「フワフワ」

有川:

絵と擬態語、擬声語だけです。読んでいる人は自分の心の動きをよむことになる。「絵をみる」だけではなく自分なりに「絵をよむ」ようになる。これが絵本の醍醐味の一つだと思います。
五味太郎さんの『おまたせしました・2』という絵本があります。この絵本は最初のページから最後のページまで、驚くことに文はずっと「おまたせしました」だけなんです。

戸田:

(笑)。

有川:

看護師さんが「おまたせしました」と、お母さんのところに生まれたばかりの赤ちゃんを連れて来てお母さん大喜び。「おまたせしました」と久しぶりに先祖代々のお墓参りをする人。雪が降らず困った様子のスキーウエアを着た人が空を見上げると雪がチラチラで「おまたせしました」など。とにかく全ページ、いろんな「おまたせしました」が描かれています。ただ並列的に並べている。


五味太郎「おまたせしました・2」

これは五味さんが生み出した新しい絵本のスタイルです。
このスタイルには意味があります。「あなたもなにか“おまたせしました”思いつくでしょう」と、問いかけているのです。
五味さんは、ヒントを出して問いかけをする作家なのです。
すると、子どもたちは絵をみるだけでなく絵を読むようになる。知らず知らずのうち「おまたせしました」に参加している。そこには、今までの絵本では得られなかった絵本のたのしみや醍醐味があります。子どもたちには、心と頭を動かしながら文も絵も楽しく読んでもらいたい。そういう絵本を出していきたいと思っています。
おおなり修司さんと高畠那生さんの『フワフワ』は4月中頃に出来上がる予定です。乞うご期待ください。

戸田:

楽しみに待っています。
有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

はい、またどうぞよろしく。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をうかがいしました。
福山出身のおおなり修司さんの『フワフワ』。絵は高畠那生さん。高畠純さんの息子さんです。とっても楽しみですね。
またぜひご紹介させていただければと思います。
そして今日は、絵本館からの新刊を一冊おすすめします。
あべ弘士さんの『おおきくなあれ』。とっても可愛い絵本です。

 アザラシのあかちゃん まっしろけ
 クマのあかちゃん まっくろけ
 たくさんのあかちゃん いろいろな親子
 みんなみんな おおきくなあれ

25年間旭山動物園の飼育員をされていたあべさんならではのいきいきとした動物たちの絵が、とってもいいです。
ご出産祝いのプレゼントにされても素敵だなと思います。
お値段は850円プラス税です。あべ弘士さんの『おおきくなあれ』、おすすめです。

(2017.3.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
フワフワ
おおなり修司・文/高畠那生・絵フワフワと舞うダチョウの羽根。それが、すべての始まりだった!
おまたせしました・2
五味太郎・作「おまたせしました」というひとつの言葉がこんなにいろんな顔をもっている。
おおきくなあれ
あべ弘士・作たくさんのあかちゃん いろいろな親子 みんなみんな おおきくなあれ
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