第5回「人生は未知との遭遇」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんな絵本のお話を聞かせていただけますか。

有川:

最初の頃にナンセンスの話をちょっとしたかと思うのですが、ナンセンス、ノンセンス。センスは「感覚・意味・意識」ですから、意識以前のもの、というような言い方ですが、子どもたちは大好きなんです。

戸田:

そうですね。

有川:

ところが、これが子どもが大人に近づけば近づくほどナンセンスが苦手になってきて、我々大人一般はナンセンスに非常に抵抗があるんじゃないかな。「この作家は、なにを言いたいんだろうか」とか、「なんなの、これは」ということが多いわけです。

戸田:

はい。

有川:

つまり、言葉で言い表すことができない部分を、絵と文字を使って表現している。そういったところがナンセンス絵本にはあるんだけれど、考えてみれば人間は、いまだもってすべてのことを言い尽くせないでしょう。だから、次々に小説も映画も出てくる。

戸田:

そうですね。

有川:

人間はすべてのことを言い表すことが出来るんだというふうに思うと、つまらない人になってくるような気がします。思考がとまって謙虚さがなくなる。これが、俗にいう石頭ですね。
だからナンセンスは、漫画とか、ことに絵本で活躍できるジャンルじゃないかと、近頃つくづく思っているんです。

戸田:

でしたら、子ども達にはたくさんのナンセンスな絵本にも出会ってもらいたくなりますね。

有川:

そうなんです。赤ちゃんのことを考えるとすぐにわかってもらえると思うのですが、赤ちゃんは生まれたそばから、周りはわからないことだらけです。だから、「わからない」ということには抵抗がない。ところが、だんだん歳をとってくると、自分のことを他人の前で「それ、わかりません」と言うのが恥ずかしくなってきます。大人になっても「それ、わからないなあ」と言える人はちょっと魅力的なんだと思います。
この前、京都に行って絵本作家のきむらよしおさんに会ってきました。きむらさんの絵本は、絵本館から『ゴリララくんのコックさん』『ゴリララくんのしちょうさん』『ふとんちゃん』『はしれ はしれ』、福音館書店から『ねこガム』などが出ています。

 

きむらさんとナンセンスの話をしていたら、うまいことをおっしゃるんです。「ナンセンスは未知との遭遇だとおもう」と。いってみれば、子ども達は小さいときからずっと「未知との遭遇」をたくさんやってきているんです。だから子どもが頭を活発に使うのには、ナンセンスの絵本が得難い存在なんだろうと、前々から考えていたんですが、「未知との遭遇」という言葉がとてもいいなと思いました。

戸田:

そうですね。

有川:

もっと多くの人たち、おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃんが、子どもと一緒に「未知との遭遇」をたのしめるような心のゆとりを持ってもらえるとうれしいなと思います。
長新太さんであったり、井上洋介さんだったり、谷川俊太郎さんもそうですね。五味太郎さん、佐々木マキさん、内田麟太郎さん、もちろんきむらよしおさんも。
そういう作家の人たちに共通していることが一つあります。子ども達をどこかに導こうという気持ちをさらさら持っていないということ。「こっちのほうがいいよ」ではなく、「僕はこんなにたのしいんだけれど、一緒に遊ばない」という、そんな雰囲気の絵本ではないでしょうか。

戸田:

一緒にたのしむ、ということですね。

有川:

そうですね。積極的に「未知との遭遇」との機会を子どもたちとたのしんでほしいものです。
最後にナンセンス絵本の効用を、もうひとつ。ナンセンスは常識を疑う力というか疑うクセを身につけられますよ。

戸田:

有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

はい。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をうかがいました。
有川さんのお話にも出てきましたきむらよしおさんの最新刊が絵本館から刊行されました。『トントンがいく』。トントンはピンクのぞうさんなんですけれども、トントンが道を行くと正体のわからないものが次々とやってきます。まさに「未知との遭遇」なんです。ぜひお子さんと一緒にページを開いてみてください。

また絵本館にはナンセンスなユーモア絵本がたくさんあります。絵本館のホームページをのぞいてみてくださいね。
(2016.8.9 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ゴリララくんのコックさん
きむらよしお・作ほんとうにすきなのです、ちくわが。
ふとんちゃん
きむらよしお・作意表をつかれる展開の妙。ドキドキした後のなごみ感。
トントンがゆく
きむらよしお・作「未知との遭遇」が大好きな子どもへ。
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