- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 石山さんとの対談『想像力が自然に生まれる絵本』が素敵な冊子になっていますね。
- 有川:
- ありがとうございます。
- 戸田:
- 読ませていただきました。
- 有川:
- あの冊子を鹿児島の短大の先生が読んで「学生みんなに読んでもらいたいので180部ほど欲しい」と言ってくださいました。
- 戸田:
- それはうれしいですね。
- 有川:
- ええ、うれしいです。熊本の書店さんの方も「この冊子を読めば絵本だけでなく、子育てをしているおかあさんたちの気持ちも楽になるでしょう。子育て中のおかあさんたちやおばあちゃんたちにも読んでもらうといいですね」と言ってくださいました。
- 戸田:
- ホント、そうです。
- 有川:
- 子育てで今や「これはしなければいけない」ということが多過ぎる気がします。基本的に子どもや孫は、居るだけでいい。みなさん、そう考えましょう。
- 戸田:
- そうですね!
- 有川:
- この前、阪神の優勝が決まった日、私は出張中だったんです。
- 戸田:
- 有川さんは、大変な阪神ファンですよね。さぞ盛り上がったことでしょう。
- 有川:
- ところが出張先の鹿児島では、試合が放送されていなかったんです。
- 戸田:
- それは大変。
- 有川:
- すると18歳の孫が「こうすれば観ることができるよ」と何度も連絡をくれました。
- 戸田:
- まあ、優しいお孫さんですね。
- 有川:
- 「いるだけでいい」どころか、孫たちふたりと共に大喜びでした。
- 戸田:
- よかったですね!
- 有川:
- なにか「ものごとが伝わる、伝わらない」ということがあります。たとえて言えば、以前お話した『ことばのえほん あいうえお』の「えんぴつ えびの えかきさん」という文にどんな絵を描いたらいいかというのは、子どものためというよりも、作家の五味太郎さん自身が「どんな絵を描いてやろうか」というワクワク感があると思います。
そのワクワク感が読者に「伝わるか、伝わないか」の重要なポイントですね。
- 戸田:
- ホントにそう思います。
そしてね、私は2600年前から言われているという孔子の話もおもしろかったです。まさに真理だと思いました。 - 有川:
- 江戸時代から「論語だ、論語だ」と言っている人たちは山ほどいるのに、論語のどこを読んでいたのでしょうか(笑)。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 昔から「論語読みの論語知らず」という言葉がありますが、肝心なところをスルーするんですね。これは恣意的というか、故意に無視してきたのでしょうか。それが今の教育にも脈々と受けつがれているんでしょうね。
- 戸田:
- 2600年前からのこの言葉、私はうれしくなりました。
- 有川:
- 石部金吉の親分みたいな孔子先生がそんなことを言っている。そう考えるとうれしくなります(笑)。
- 戸田:
- あらためてこの言葉を有川さんからお伝えいただけますか。
- 有川:
- 「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」と『論語』にあります。
絵本でも音楽でもなんでもいいのですが、「よく知っている人と絵本や音楽を好きな人は、どっちが上でしょう」と孔子が言っている。「それは知っている人よりも好きな人のほうが上なんだよ」と。
そして次は「好きな人と楽しんでいる人では、どっちが上でしょう」と。「それは楽しんでいる人が一番上ですよ」と言っています。 - 戸田:
- ええ。
- 有川:
- 江戸の昔から学者たちは「楽しむ」をバカにしてきたのですから皮肉な話です。
絵本のことで言えば、絵本を楽しんでいるチビちゃんたちが一番エライという話に落ち着くということですね。 - 戸田:
- 本当にそうですね。
- 有川:
- 昨年12月に『ふんが ふんが』を小学3年生の前で読んだんです。子どもたちは大笑いしてくれました。
そこで「ねえねえ、おじさんが読んで君たちは笑ってばかりいるのはズルイんじゃない。だれか、おじさんに読んでくれないかな」と言ったら、おずおずと男の子が手をあげてくれました。 - 戸田:
- いいですね。
- 有川:
- ええ、うれしくなってお願いしました。するとその男の子、ものすごくでっかい声で「ふんが ふんが〜っ!!」と読むんです(笑)。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- クラス中、大爆笑です。
そういう様子を見させてもらって心からうれしい気持ちになりました。
学校を出て車の中で「われわれはいい仕事を45年も続けているんだね」とスタッフの女性と話しながら、温かな気持ちで帰路につきました。 - 戸田:
- 有川さんのそんな思い、子どもたちに届いていますね。このお仕事、ずっと続けてください。
- 有川:
- ありがとうございます。
おもしろい、たのしいと思う気持ちが大きな力になるんだ、と思ってくれたら本望なのですが、でも子どもたちにこちらの気持ちが伝わったかな。 - 戸田:
- もちろん伝わったと思いますよ。
有川さん、今日もありがとうございました。 - 有川:
- こちらこそ。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんでした。
有川さんのお話にありました小冊子『想像力が自然に生まれる絵本』、オールカラーで28ページ。子どもたちに関わるすべての大人のみなさんに読んでいただけたらいいなと、願っています。本当にすばらしい内容で、有川さんの思いが伝わってきます。ぜひお手にとってみてくださいね。
(2023.10.10 放送)
『想像力が自然に生まれる絵本』は以下のリンクからも読めます。

想像力が自然にうまれる絵本
想像力が自然にうまれる絵本、うまれない絵本

ことばのえほん あいうえお
五味太郎・作子どもに読んであげたらリズムのよさにびっくり。

ふんがふんが
おおなり修司・文/丸山誠司・絵「ふんが」の3文字のみで語られるゴリラパパの奮闘記。