第87回「なにかが伝わる」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

黒澤明監督が「美というものは説明できません。感じとるしかないんです」と言っています。
「美」というものを「これは美しいでしょう、りっぱでしょう、すごいでしょう」と言っても、相手の心は動かない、伝わりません。相手の心には響かない。

戸田:

そうですよね、好みもありますし。

有川:

そう、大事なのは、その「好み」です。黒澤監督は「美を伝えることは難しい、感じとるしかない」と言いました。では、どうしたら感じとれるようになるのか。
以前、話しましたが「好きか、そうではないか」を何度も繰り返しているうちに自分の好みが、みえてくる、わかってくる。映画でも絵本でも、なににでも言えることだと思います。ですから大事なのはその子、その子の「好き」に気付くことです。

戸田:

ええ。

有川:

自分の好みがわかってくる。すると、その人の「個性」も芽生えてくるのではないでしょうか。これは大人だけでなく子どもにとっても、とても大事なことです。
たとえば「絵」のことで言えば、描いている作者の気持ちが、見る人に伝わる絵があったりします。

戸田:

ありますね。

有川:

最近、絵本館から出た『とおくのしんせきより ちかくのねこ』という絵本があります。

戸田:

広瀬克也さんですね。

有川:

「猫がいてくれて幸せ」という思いがよく伝わってくる絵本です。「この人は本当に猫が好きなんだなあ」という思いが自然に伝わってきます。実は、広瀬さん夫婦のことをよく知っているものですから、ちょっと奥さんより猫への思いのほうが強すぎるのではないかが気になりますが(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

いろんなことわざを猫にたくして描いています。
「くるしいときのねこだのみ」(くるしいときの神だのみ)、「ねこにも衣装」(馬子にも衣装)、「親しきねこにも礼儀あり」(親しき仲にも礼儀あり)と、着想がおもしろいうえに、ユーモアもたっぷりです。

戸田:

そうですね!


広瀬克也・作『とおくのしんせきより ちかくのねこ』

有川:

先日、「マティス展」に行ってきました。僕は、特にマティスの切り絵が好きです。マティスの作品をみていると、清々しい気持ちになります。

戸田:

いいですねえ。

有川:

また、柚木沙弥郎さんという染織家がいます。101歳の今も創作活動をされているアーティストです。
その柚木さんが「ただ一枚の染め物をみた人の気が晴れて元気がでたら、僕はうれしい」と書いてありました。

戸田:

すてきですね。

有川:

マティスと沙弥郎さん、この二人に相通ずるものを感じます。ともに表現しているものに、作者の「うれしい」「たのしい」という子どものような清々しい気持ちが表れています。

戸田:

そうなんですね。

有川:

そして、広瀬克也さんの『とおくのしんせきより ちかくのねこ』も、猫がすきなんだなあという気持ちが伝わってきます。それだけでなく、「親しきねこにも礼儀あり」というフレーズを思いついた時、広瀬さんの「さて、どんな絵を描こうか」というワクワク感も伝わってくるような気がします。
「すきなものを描いている人の思いがみえてくる」、それもこちら読者の幸せです。眼福というのでしょうか。これは理屈ではありませんから、子どもたちも感じとれるのではないでしょうか。いや、子どもだからこそ強く感じとれるのです。ここが子どもに接する大人にとって、とても大事なところだと思います。もっと気にしていいところです。なにしろ好き嫌いは理屈では説明できませんから。

戸田:

本当にそう思います。

有川:

「理でつめていけば、なにごとも見えてくる、分かってくる」と今の人は思いがちです。ところがこれは大きな勘違いです。

戸田:

ええ。

有川:

僕はどちらかと言うと、理で考えがちなタイプ、つまり勘違いのタイプなので気をつけなければいけない、と思ってはいるのですが……(笑)。

戸田:

え、そうなんですか(笑)。

有川:

「美というものは説明できません。感じとるしかないのです」。まったくそのとおりだと思います。そこで、沙弥郎さんは「自分が気持ちよくやった仕事を誰かが喜んでみてくれる。それが一番うれしい」とおっしゃっています。
ここに「感じとる」ために最も大切なことが述べられています。なによりも作者自身が気持ちよくやる。これが大前提、すると作者の「うれしい」「たのしい」という思いが伝わる。それが表現する作者にとって最も大切なことだと思います。

戸田:

こちらもうれしくなってしまうような言葉ですね。

有川:

その通りです。絵本でも同じことがいえます。絵本の作家が「子どものために」とか「子どもを導こう」などと考えず、作者が気持ちよくやった仕事。そんな絵本だからこそ、子どもにも、なにかが伝わるんですね。
ぜひ、みなさんも機会があったら柚木沙弥郎さんのタペストリーをみてください。マティスの作品は、時々ご覧になることもあるでしょう。
そして、広瀬克也さんの『とおくのしんせきより ちかくのねこ』もみてください。猫が気持ちよく描かれています。特に猫好きにはおすすめの絵本です(笑)。

戸田:

はい(笑)。
今日は有川さんらしい芸術にふれた深いお話を聞かせて
いただきました。ありがとうございました。

有川:

こちらこそありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。

有川さんのお話にもありました広瀬克也さんの新刊『遠くのしんせきより ちかくのねこ』、改めてご紹介させていただきます。

ねこがちかくにいる幸せ、たっぷりお届けします!
棚からねこ(棚からぼたもち)
花よりねこ(花よりだんご)
ねこと背くらべ(どんぐりの背くらべ)
などなど、おなじみのことわざ等の一部を「ねこ」に置きかえて描かれています。
いろんなねこのいろんな仕草にうなずいたり、あきれたり、ふきだしたり……。
「あ、これはうちのねこ」
そんな声がきこえてきそうです。

広瀬克也さんのメッセージです。

僕のそばには、いつも猫がいます。みんな捨て猫や保護猫です。はじめて飼った「むぎ」はやんちゃだった。外に行って、ケンカをして怪我をしてくる。よく病院に抱きかかえて行きました。「うり」は内気で甘えん坊。「ごま」は優しくて賢くて、とても長生きしてくれた。今一緒の「しお」は、よくしゃべっておもしろい。
猫が近くにいるだけで、なんとも幸せな気持ちになる。そんな思いでこの絵本を描きました。楽しんでいただけたらうれしいです。

作者の広瀬克也さんは、ねこに「うちに来てくれてありがとね」と毎日言っているそうです。
『ねこおどる』に続く、ねこシリーズ第二弾!
広瀬克也さんの『とおくのしんせきより ちかくのねこ』絵本館からの新刊です。ぜひお手にとってみてくださいね。
HPにもご紹介があります。
(2023.7.11 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。
とおくのしんせきより ちかくのねこ
広瀬克也・作 ねこがちかくにいる幸せ、たっぷりお届けします!
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