- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話でしょうか。
- 有川:
- 先日、東京都の立川で開催されている谷川俊太郎さんの「絵本★百貨展」」という催しに行ってきました。百貨展の「展」は「店」ではなく、展覧会の「展」です。
- 戸田:
- いいですね。
谷川俊太郎 絵本★百貨展
2023年4月12日(水)〜7月9日(日)PLAY! MUSEUM
- 有川:
- 谷川さんにとって「子どもの頃の最初の絵本」は、「百科事典」なんだそうです。
- 戸田:
- まあ!そうなんですか。
- 有川:
- 百科事典をみるのが、とても好きだったそうです。百科事典ですから絵も付いてます。
- 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- 百科事典の「文章と絵」を互いにふくらませながら、いろいろ考えるのが好きだったそうです。
90歳になられた谷川さん、これまで何冊の絵本を書かれたでしょうか。
展覧会会場には、『もこ もこもこ』の元永定正さんの原画など、谷川さんと一緒に絵本を作られたたくさんの絵描きさんの絵が飾られていました。趣向もいろいろ工夫されていておもしろかったです。 - 戸田:
- とても楽しそうです。
- 有川:
- 絵本館の『おならうた』(谷川俊太郎・原詩/飯野和好・絵)も展示されていました。今回久しぶりに『おならうた』の原画をじっくりみてきました。
- 戸田:
- 素晴らしいでしょうね。
- 有川:
- 額装されている『おならうた』の原画をみるのは初めてだったので、とても新鮮な気持ちになりました。
- 実は、『おならうた』は谷川さんが書かれた「いもくって ぶ くりくって ぼ すかして へ ごめんよ ば……」という詩が紹介されている雑誌をみて、「これは絵本になるんじゃないだろうか」と思ったんです。
- 戸田:
- なるほど。
- 有川:
- そこで谷川さんにお願いしましたら「これは、もともと僕が考えた詩ではなくて、わらべうたを元に作ったものなんです。ですから、“谷川俊太郎 詩”として出すのは憚り(はばかり)がありますので“谷川俊太郎 原詩”としてください。絵は飯野和好さんにお願いします」ということで出来ました。
- 戸田:
- そうでしたか。
- 有川:
- 谷川さんは、ご自分の絵本のことを「認識絵本」とおっしゃっています。
- 戸田:
- 認識絵本ですか。
- 有川:
- よくある普通の「ものがたり絵本」ではなく「認識絵本」、「ものの見方」あるいは「ものの考え方」を自然にうながす絵本といっていいと思います。
谷川さんが長新太さんと作られた『わたし』という絵本があります。
「となりのおばさんからみると となりのみっちゃん、
お医者さんからみると やまぐちみちこ5さい……」 - 戸田:
- はい。
- 有川:
- まさに「客観的に見る」ということを表現している絵本です。人間、つい自分中心に考えがちですが、そうではなく「ひとから見ると自分はこう見られているんだ」ということを谷川さんの言葉と長さんの絵で描くと、視界がひろがっていく。絵を見るだけでなく、絵を読むたのしみが満載の素晴らしい絵本になっています。
谷川さん、長さん、五味さん、おおなりさんもそうだと思いますが、子どもを導くのではなく、「こういうのどうかな」「材料は新鮮でしょう」「どう料理するかは、あなた次第。自由に腕をふるってください」という、そんな絵本を作っているのだと思います。「認識絵本」というか「ものの見方」を育てる絵本ですね。読者、子どもの自主性に期待と信頼を寄せている絵本といっていいでしょう。 - 戸田:
- ええ。どこまでも想像力がふくらみますね。
- 有川:
- 同感です。
毎日新聞に九州国立博物館の館長島谷弘幸さんの「書の楽しみ」という文がありました。
「王義之」などの古い書に対して、その書を「好きかそうでないかの判断を正直に下していくと、次第に鑑賞力も長足の進歩を遂げ、さらに深く楽しむことができる」と書いてありました。
このことは絵本にも当てはまります。子どもも好きかそうでないかの判断を正直に下していく。この「正直に」というのが大切です。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- すると、「次第に鑑賞力も長足の進歩を遂げ」、そして「さらに深く楽しむことができる」。ここがいいですね。趣味はこうして生まれるものだと思います。
- 戸田:
- なるほど、そう言われるとそうですね。
- 有川:
- 書であれ絵本であれ、音楽でも俳句でも、ファッションもみな同じではないでしょうか。
- 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- 「わかる、わからない」など、気にせず自分にとって「好きか、そうでないか」を軽やかに判断する。自分に対して正直に対応していけば、深く楽しむことができるようになるんですね。
昔、ラジオ局でクラシック音楽番組の下働きをしていたことがありました。その時にもたびたび「クラシックはわからない」という声をききました。「わかるかわからないか」と考えると、音楽のたのしみからどんどん離れていきます。そうではなく正直に「好きかそうでないか」と思えばいいですね。だれ憚る(はばかる)ことはありません。自分の気持ちに正直でいれば、たのしみは自ずからひろがっていきます。
そう考えると、子どもたちにとって絵本との出会いは自分の判断を磨くためにも、とてもいい機会ではないかと思います。 - 戸田:
- そう思いますね。
- 有川:
- 今日は、なんだか立派なことを言っているような気がしますが(笑)。
- 戸田:
- 有川さんのお話、心に響きました。
- 有川:
- ありがとうございます(笑)。
- 戸田:
- 私もこれから「好きかどうか」を自分に対して正直に、いろんなものに触れていきたいと思います。有川さん、今日も素敵なお話、ありがとうございました。
- 有川:
- こちらこそ、ありがとうございました。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんでした。
有川さん初めてのご出演が2016年の4月でしたから、
もう7年になります。月に一度、楽しいお話をしてくださっている内容が絵本館HPの「編集長の直球コラム」で連載されています。私も楽しく読ませていただいています。ラジオ版「絵本の力」。最新記事は、第83回『結局はわからない』。ぜひご覧くださいね。
そして絵本館HPには、新刊情報もあります。ひとつご紹介させていただきます。りとうよういさん『こしたんたん』。
- めまぐるしく変化するトラの表情から目が離せません。
おそろしいトラが
そろーり そろーり
息をひそめて こしたんたん
ねらっているのは・・・?!表紙のトラがすごくかっこいいです。
りとうよういさんは、2013年に『べんべけざばばん』で絵本作家デビューされて、今年10年になるんですね。
自由な発想で独特の世界観をもつ作品を作り続けていらっしゃいます。絵本館からも4冊出版されていますから、絵本館HPの作家さんご紹介ページから、りとうよういさん、ぜひみてみてください。
(2023.05.09 放送)
おならうた
谷川俊太郎・原詩/飯野和好・絵想像力をかきたてるそれぞれの状況設定に大爆笑!!
こしたんたん
りとうようい・作 めまぐるしく変化するトラの表情からめがはなせない!