第77回「想像力をかき立てる」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

先日、月刊『文藝春秋』で信友直子さんという映画監督の記事を読みました。信友さんは、広島県呉市の出身で『ぼけますから、よろしくお願いします。』という両親の日常を撮ったドキュメンタリー映画を作られたんです。

戸田:

ええ。

有川:

101歳のお父さんと60歳のお嬢さん信友監督の対談なんです。それがとてもいい。お父さんが「わしは、元来いい加減な男で大した人間じゃない。そう思ったら偉そうにすることもないじゃろ。自分を過大評価するけん、余計な争いごとが生まれるんよ」と言っています。広島弁もいいですね。

戸田:

そうですね。

有川:

特に男は、自分を過大評価しがちなので耳が痛い、というか肝に銘じなければならない言葉だと思いました(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

その監督のお父さん、98歳から筋トレを始めたそうです。

戸田:

すごいですね。

有川:

奥さんが入院したので、退院したときに奥さんを支える力がないといけない、と考え始めたそうです。その後、不幸にも奥さんは亡くなられたそうですが、101歳になった今も筋トレは続けているそうです。

戸田:

まあ、そうなんですか。

有川:

トレーニングに行くと、70歳代、80歳代の人たちの励みになっているそうです。世の中にはすごい人がいるもんだと感心しました。

戸田:

そうですね。

有川:

もう一つ面白いと思ったのは、お嬢さんの信友監督が子どものときに、字幕スーパーがついていない「セサミストリート」を毎回見ていたそうです。そうしたら、英語がだいたいわかるようになってきたそうなんです。

戸田:

ええ。

有川:

ジョン万次郎が、ボストンに行って英語の読み書きが出来るようになったのと同じですね。見たものと聞いたものを相互に確かめ合って、あたりをつける、予測をするうちに英語の全貌が見えてきたんでしょうね。それと同じことが、子どもの頃の信友さんにも起こったのでしょう。
この経験が、映画監督になったときも役に立ったのではないか、と言っていました。

戸田:

そうですか。

有川:

また、『俳句のきた道』という本を読んでいたら、芭蕉が「もののすがたを表現し尽くしたと言って、それがどうしたと言うのだ」と言っているそうです。
「俳句に限らず、詩という文芸は表面的な理解だけでわかった気になってはいけない。言葉の裏にある“余韻”や“想像力”といった考え方が大切になる」と、著者の藤田真一さんの言葉です。
なにごとも言い尽くすと余韻や想像とは、かけ離れてしまう。これは絵本でも同じことが言えます。しっかりした展開の話に写真のような細密な絵がついていたら、絵本を読む側に想像力が生まれるでしょうか。
そして「俳諧は三尺(せき)の童にさせよ」と芭蕉は言っているそうです。「俳句というものは三尺、つまり身の丈1メートルほどの無心な幼い子にさせるのが一番だ」とのこと。これは、絵本と逆の意味で相通ずる話です。
一見、大人のものだと思われている俳諧が実のところ童にさせるのがよくて、反対に子どものものだと思っている絵本が、大人にとっても馬鹿にならない力を持っている。

戸田:

そうですね。

有川:

前回、僕が「期待大ですよ」と言った、おおなり修司さんと丸山誠司さんの新刊は『ふんがふんが』です。

戸田:

おもしろそう!(笑)


おおなり修司・文/丸山誠司・絵『ふんがふんが』

有川:

ゴリラが出てきて「ふんが ふんが」「ふんが!ふんが!」「ふんがー、ふんがー!!」と言っているんです(笑)。

戸田:

有川さん、お上手ですねえ(笑)。

有川:

今日、丸山誠司さんが原画を持ってきてくださったんです。原画を見て、もううれしくなっちゃいました(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

先ほど言った「余韻」「想像力」が、ごく自然に読む側に生まれてくる。絵本を読む楽しさを感じとることができるんです。

戸田:

いいですねえ。

有川:

最初から最後まで、ほとんど「ふんが ふんが」しか言っていないんですよ(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

言葉はそれだけなのに、最初から最後までゴリラの気持ちが手にとるようにわかる。そんな気になります。結果、字幕スーパーも吹き替えもない「セサミストリート」のようなものになっています。
読む側の想像力をかき立てる、素晴らしい絵本が出来ました。子どもは画面の絵を見ながら、言葉にあたりをつける。大体こうであろうと予測する。それが想像です。そんな経験を経て他を思いやる心も生まれてくるようになるのではないでしょうか。

戸田:

名コンビですもの。傑作まちがいなしですね!
有川さん、今日もいっぱい笑わせていただきました。

有川:

絵本は、子どもたちが小さい頃から「余韻」とか「想像力」を自然に身に付ける。そんな力をもったジャンルだと思います。そのために必要な要素は、「省略と飛躍」です。そんな絵本に『ふんがふんが』はなっています。その上、リズミカルでユーモラスな絵本にもなっているんですから、うれしくなります。

戸田:

これからも楽しみにしています。どうもありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。
(2022.9.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。
ふんがふんが
おおなり修司・文/丸山誠司・絵「ふんが」の3文字のみで語られるゴリラパパの奮闘記。
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