第76回「めをさませ」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそよろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

中学生の孫と話をしていたら「◯◯君は頭がいいんだよ」とか言うんです。そこで、「へえ、どんなふうに頭がいいの」と聞いたんです。

戸田:

はい。

有川:

すると、要するに“偏差値が高い”ということなんです。

戸田:

ああ、なるほど。

有川:

だから、僕は孫に「“偏差値が高い”イコール“頭がいい”ということにはならないと思うよ」と言ったんです。“頭がいい”にもいろんな種類がありますからね。

戸田:

ええ。

有川:

ほとんどの人が明治以降ずっと“テストの点数が高い”のを“頭がいい”と思ってきました。
過去に習ったことを問うのがテストです。偏差値が高いということは、過去習ったことに対する記憶力をためされています。テストは過去に向いている。
ところが企画力とか決断力は、過去をかえりみることも必要ですが、未来に向かっています。その未来を見通す力や予測・推理する能力が求められている。これは偏差値では歯が立たない。学力や能力だけでなく、勘も優れていなければなりません。勘はテストに馴染みません。
だから過去をふりかえると大事な局面を迎えたとき、舵を切りそこねるという事がたびたび起こっています。戦争しかり、東京電力しかり、です。みな偏差値の高い人たちが考え、決断実行したことです。
では、どうすればいいのか、ということになります。
すぐれた指導者のもと、統制された集団が一致団結して行動する、そんなやり方はとうの昔に終わっているのです。その方向に固執しているため、日本はこの30年停滞を余儀なくされているのだと思います。経済界のみならず、スポーツの世界もいまだに相変わらずの状態です。なにしろ改めることがない。
これからは個々それぞれの力がアップするのが一番ではないかと思います。そのためには人々が生き生きと生活できているかどうかが問題です。
たとえば、みんながそれぞれ持っている「表現したい」という思い。その思いは、大人よりも子どもたちはたくさんもっているでしょう。絵を描いて表現する、粘土で表現する、音楽で表現する、踊りで表現できる子もいるでしょう。
そうした「いろんな思いを発揮する場」として学校を考え直してみると、学校は結構素晴らしい所になり得るのではないでしょうか。

戸田:

そうですよねえ。

有川:

「自分に向いている、合っているものは何か」を見つけるということは、なかなか難しいことです。ちいさな子どもや中高生、大人でも難しい。だから、いろいろやってみるしか方法はありません。大人が邪魔をしないことですね。基本は放っておくことです。

戸田:

ええ、そう思います。

有川:

たとえば、小説のように長い作品を考えるのが好きな人もいれば、絵本のような短い文に絵を付けて考えるのが好きな人とか、いろいろです。

戸田:

ええ。

有川:

短い文と絵を駆使して次々と新しい絵本を考えるのが好きな作家といえば、五味太郎さんです。その五味太郎さんの新刊『めをさませ』という絵本が出来ました。


五味太郎『めをさませ』

うっとり ねてたら・・・・
おちました
おちています
おいおい ねてるのか?
おーい めをさませ!
そのままだとやばいぞ! しぬよ!!

はっ!
ぼく とりだよ!
とりだから
ぱっと ひろげるんだ!
そして くるっと まわって
とぶんだよ!
ほうーら
じょうずに とまったでしょ!

有川:

自分の中に眠っている「なにか」が、その人にとっての得手なものになる可能性は大きい。それを見つけられたら、しめたものです。それこそ「好きこそものの上手なれ」という言葉もあります。

戸田:

ええ、本当にそれですよね。

有川:

一生懸命出来るというのは、好きだから出来ることではないでしょうか。だから、自分にとって好きなことやものを見つけるのは、とても大事です。

戸田:

そうですよね。

有川:

僕は、人が描いた文や絵をみて「いいですねえ」と言うのが好きなんです(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

だから、こういう仕事に向いているのでしょうね(笑)。

戸田:

私は「有川さんって、やっぱりこのお仕事が天職だなあ」って、いつも思っています。

有川:

僕自身も、「この仕事につけてよかったなあ」と思っています。

戸田:

私はそれをいつも感じています。
絵本館さんの絵本って、とても自由で本当に楽しくさせてくれますから。

有川:

前も言いましたが、高畠純さんから「絵本館の絵本は作家性が高くて、作家が自由にやっているというのがよく出ているめずらしい出版社だ」と言ってもらいました。

戸田:

そのとおりですね。
その次々考えるのが好きといえば、おおなり修司さんもそういった作家ですね。おおなりさんもとても楽しそうです!(笑)

有川:

先日も打ち合わせしていたんですが、「えー、そんなのをまた考えてきたの!」という原稿を3つも見せてくれました。そして、3つとも面白いんですよ。

戸田:

そうですか!おおなりさんの次回作も期待大です!楽しみにしています。

有川:

ぜひ、期待してください。

戸田:

有川さん、今日も楽しいお話をありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんでした。

有川さんのお話にもありました五味太郎さんの最新刊『めをさませ』、とっても楽しい絵本です。
五味太郎さんからのメッセージをご紹介させていただきます。

この絵本が出来上がって、いつものように嬉しく読んでましたが、5、6回読み返しているうちにふっと、このチビのフクロウ、寝ぼけて落ちたんじゃないかもしれない、と思いました。みんなをハラハラさせる墜落遊びをいつもしているんじゃないかと。だからお月さんもお家さんも一応お付き合いして「あら、まあ」なんてやっているんじゃないかと。
描く前には少しも気付かなかった、つまりコウモリやお星さんの気分でした。今度チビに会ったら本当のところはどうなの?って聞いてみます。

ユーモアたっぷりの五味太郎さんの最新刊『めをさませ』、絵本館から好評発売中です。
(2022.08.09 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。
めをさませ
なにしろおちるんです。だからこの絵本は縦開き。
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