- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話ですか。
- 有川:
- 新聞を読んでいたら、住民基本台帳に基づく新しいデータをエクセルで作りだした男性の紹介があったんです。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- その人は専門学校を卒業し、埼玉県庁に入って44年、63歳になるそうです。52歳のときに統計課に配属されたのですが、そのときはエクセルも何もわからなかった。それで隣の若者に一生懸命聞いて、教えてもらったそうです。そのうち自分でどんどん知識を深め、今や「趣味はプログラミング」と答えるまでに大好きになったそうです。
- 戸田:
- そうですか!
- 有川:
- これ独学です。
- 戸田:
- 素晴らしいですね。
- 有川:
- 多くの人は「独学こそがすごい」ということを、あまり自覚していないと思うのです。
モーツァルトもベートーベンもみな独学です。当時、作曲を教える学校などありませんから。作曲といえば、日本でも武満徹さんが独学です。 - 戸田:
- そうですね(笑)。
- 有川:
- 絵本館でコンピューターの仕事をやってくれている女性も独学です。独学の人は新しいことにぶつかると、今まで自分自身の力でなんとかやってきていますから、いろいろな引き出しを持っています。ですから、なんとか工夫することができる。ところが、学校で学んできた人は壁にぶつかると「すぐ教えてもらおう」と思ってしまう。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 「教えてもらいたがる人」と「自力でなんとか工夫する人」。ここには大きな違いがあります。要は「好きこそものの上手なれ」ということですね。
前回、『ノブーナガ』の話をしました。南伸坊さんが「これは傑作だ」と言ってくださって南さんの推薦文もみなさんにご案内しました。その南さんも独学の人です。漫画家は、みな独学です。
今度は、『ノブーナガ』と同じ作者の丸山誠司さんが『ひでよーし』をかいてくれました。 - 戸田:
- はい!
- 有川:
- そこで「そうだ、伸坊さんに『ひでよーし』も見ていただいたらコメントをくださるかな」と思ってお送りしたら伸坊さんからコメントをいただきまして。
- 戸田:
- まあ!
- 有川:
- 「でーら おんもしろーい!
なごやべん かっこいーい!
てんぐも、ふーじんも、らいじんも
だいぶつさまも、かーわいーい!
丸山せんせいの絵本は、
たのしくて、おもしろい。
丸山せんせいが、おもしろがって
たのしんでかいてるから」と。 - 戸田:
- 本当にそうですね。
- 有川:
- ここで僕が何を言いたいかというと、一つは作家がおもしろがってかいていると、子どもたちだけでなく多くの人たちに何かが伝わるんですね。ここは、とても大事なところです。伝えようと頑張ると、何も伝わらない。押し付けがでますからね。ところが、作者がおもしろいと思ってかいていると不思議なことに何かが伝わるんですね。人間はそんな生きものです。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- 絵本作家のことでいえば、長新太さんも五味太郎さんも、この丸山さんも、みんな独学です。というか、ほとんどの絵本作家は独学です。僕も絵本は独学です(笑)。僕は五味さんから、たくさん話をしてもらいましたが、「絵本とはこういうものだ」という“手ほどき”のようなものは、ほとんど話してもらうことはありませんでした。もちろん少しはあります。たとえば「絵本はいきなり始めて、いきなり終わることができる珍しいジャンルだ」とかね。でも、細かいことをいろいろ言われなかったことが良かったと思っています。自分で考えますから。
- 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- そして、もう一つは思考を深めるということ。
そのためにはどうすればよいか。
この前から話しているスペインのサッカークラブ、ビジャレアルのコーチ佐伯夕利子さんが、とてもいいことを言っています。
「思考にとって一番大事なのは、まず“考える”、次に“疑う”、その次に“考え直す”。この繰りかえしをやらない限り思考が深まるということはないのではないか」と。スポーツでも実生活でも大事なのは「ものの見方」です。
絵本でも同じことが言えます。だから信じるばかりではなく、ちょっとだけ疑うことも大事です。少しだけ分からないところがある。そんなところを準備してある絵本が、僕はとても魅力的だと思っています。
疑うためには心が固くなってはいけません。軟らかくフニャフニャしているのがいい。アイデアは、ふざけたことが好きな人から出ることが多い。だから、ユーモアはとても大切です。アイデアを生み出すのは四角四面の人ではむずかしい、というか無理でしょうね。 - 戸田:
- なるほど。
- 有川:
- 『ひでよーし』も、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。なにしろフニャフニャな絵本ですから(笑)。
- 戸田:
- すごく楽しみです! 有川さん、今日も「考えて、疑う」内容でした。私も思考を深めていきたいと思います。今日もありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- よろしくお願いします。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんでした。
(2022.6.14 放送)
ひでよーし
丸山誠司・作あっぱれ 武将絵本 第二弾!