第62回「教えないのがミソ」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

絵本には大きく分けて、2つの方向があると思います。
ひとつは「子どもたちにいろんな事を教えてあげよう」という方向です。

戸田:

はい。

有川:

もうひとつは「教えない方向」というのでしょうか。
今、読んでいる本があります。スペインのビジャレアルという所で、サッカーチームのコーチをされている佐伯夕利子さんの『教えないスキル』という本です。佐伯さんは、ある事を契機に教えなくなったそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

教えれば教えるほど、選手や子どもが自分で考えなくなってしまう、と。

戸田:

なるほど。

有川:

久保建英さんという日本代表の若いサッカー選手がいますが、彼が通っていたチームだそうです。
なにしろ『教えないスキル』という本のタイトルが、すごい(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

昔と比べると巷には「子どもたちに“教えよう”“教えよう”」が満ちあふれている。時代とともに「ほったらかしておく」ということが少なくなっているような気がします。昔は子どもの数も多く、その上、親は炊事洗濯家事に手がかかる。子どもにかまっていられなかった。結果、ほったらかし、すると子どもは自分で考え行動する。

戸田:

本当にそうですね。

有川:

「小学校に入るまでに子どもが字を読めるか、読めないか」などということを気にすることはありません。それより心配しなければならないのは「好奇心」、特に「知的な好奇心」というものがどうやったら育ち、反対に失われてしまうのか。なにごとにも知った気になる。知ったかぶりになる。これが知的好奇心の喪失にもっとも有効な心の在り方です。絵本が、そういったことに加担していると言えなくもない。

戸田:

ええ。

有川:

中島敦という作家がいます。『山月記』『名人伝』など、ほとんどの高校の国語教科書にのっています。文章そのものも好きですが、僕は書も大好きです。
中島さんは子どもの頃、「それはおとなになったら、わかるから」と言われて育った。ところが、おとなになった今でもわからない事は減るどころか、子どものとき以上に増えている、と。

戸田:

ええ(笑)。

有川:

ところが、そう言ってがっかりしている訳ではない。「“わからないこと”が増えたために、却って好奇心が強くなった。そんな気がする。だから“わからない”ということは有難いものだ」と書いてありました。僕もそう思います。匙かげんということでいえば、ここが教育者の腕のみせどころです。多くの大人がこれに気付いているか。
サッカーだけでなく絵本も「わからせよう」とするのではなく、自ずと子どもの心が活発に動くか否かです。自主性の芽生え。それがとても大事だと思うんです。
絵本は文字だけでなく、せっかく絵も使えるんですから、絵を見て、あるいは絵を読んで考える。そういう方向をもった絵本に注目してもらいたいものです。

戸田:

本当にそうですね。たとえば、どんな絵本がありますか。

有川:

高畠那生さんの『みて!』というタイトルの絵本があります。


高畠那生・作『みて!』

そこに出てくる主人公の女の子の気持ち、その子を見ている人たちの気持ち、大きなタコの気持ち…。それらが絵を見ていると手にとるようにリアルに伝わってきます。絵の力です。そんな読者の自主的な気持ちが自然と湧きでてくる絵本。そうした絵本を手にとってもらいたい。
最後はダジャレでしめてみたいと思います。
『みて!』を是非みてください。こりゃダメか、あまりに陳腐、失礼しました(笑)。

戸田:

(笑)。有川さん、今日もありがとうございました。来月もよろしくお願いいたします。
絵本館代表の有川裕俊さんでした。

耳より情報があります。あの人気シリーズ広瀬克也さんの『妖怪横丁』の妖怪たちが、ぬり絵になっています。横丁には登場しないアマビエも「疫病退散」の願いをこめて広瀬さんが描いてくださっていて、PDFをダウンロードしてプリントアウトすれば、お楽しみいただけます。ステイホームにご家族で楽しんでみてくださいね。

(2021.6.8 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。
みて!
高畠那生・作みて!このダイナミックなあっけらかんさ。
妖怪ぬりえ ダウンロード
妖怪横丁の人気者たちをぬりえにしました。 たのしく遊んでくださいね!
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