第47回「橋を渡す」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

何年か前にテレビで、100歳近くの人にヘッドギアのようなものを付けて脳の働きがどうなっているか可視化するという番組をやっていたんです。すると新聞を読む、雑誌を読む、テレビを観るということでは全然ダメなんです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

福岡の「しいのみ学園」の園長先生は97、8歳なんですが中国語を勉強されている。その園長先生が中国語の勉強を始めると、前頭葉が真っ赤になるんです。

戸田:

まあ。

有川:

俳句が趣味だという100歳近い女性に「ちょっと俳句を考えていただけますか」と言ったら、同じく前頭葉は真っ赤です。新たなことに挑む。あるいは創造するクリエイションですね。受け身ではなく能動的な姿勢が頭を活性化させる。それが映像でみえる。脳の働きが活発になると前頭前野という部分に血流が集まって真っ赤になるそうです。

戸田:

それはすごいですね。

有川:

99歳で亡くなった父も70歳から俳句をはじめたんですが、まったくボケることなく過ごしました。三千数百の俳句を作りました。父がボケなかった大きな要因のひとつだと思います。

戸田:

すばらしいですね。

有川:

脳の中が真っ赤になる絵本があるかなと考えると、高畠純さんが「絵本はわざとちょっと足りなくするほうが読者の想像力をたくましくするんだよね」と言っていました。
「あなだなあ」「なすおすな」「かしたべたしか」という回文があります。回文とは、前から読んでも後ろから読んでも同じ文のことです。文章だけ見たときには、「なんだこれは」と思いました。確かに回文は回文ではあるけれど、これが絵本になるのか、と。

戸田:

ええ。

有川:

ところが、高畠さんの絵が付くと味わい深いものが出現するんです。おもしろい。

戸田:

そうですよね、とっても楽しくて!

 
本村亜美・文/高畠純・絵『どっちからよんでも -にわとりとわに-』

有川:

「有川さん、逆もやってみると逆も真なりだよ」と高畠さんに言われ、回文を読まずに絵を先にみる。すると「この絵は、なんなんだ」となります。ところが文があると味わいが出てくる。つまり文と絵、両方にちょっとした不足があるというわけです。
それを補っているのが、読者である子どもや、われわれの頭です。頭が動きだす。その結果、前頭前野が真っ赤になるんでしょう。

戸田:

(笑)。

有川:

考えてみると40数年ずっと「絵と文にちょっと距離がある絵本」をやってきた気がします。文と絵にちょっと距離がある。すると、その少しの距離に橋渡しをしようと、頭が動きだす。子どもにも大人にもそんな動きが頭に生じるのではないかと思います。

戸田:

本当にそうですね、有川さんの脳みそは真っ赤っかですね(笑)。

有川:

そんなことはありません。会社の経営は真っ赤っかという状態はありますが(笑)。

戸田:

やっぱり、有川さんはやわらか脳ですね(笑)。
脳活にも役に立つ絵本館の絵本、大いに注目していただきたいですね(笑)。

有川:

ええ。また一冊、一見なんの役に立ちそうにないけど楽しい絵本が出ました(笑)。

戸田:

丸山誠司(さとし)さんの『ノブーナガ』ですね、とてもおもしろいです!もう大好きです!

有川:

その土地その土地の言葉、広島なら広島、東北なら東北、沖縄なら沖縄の言葉。これはとても得難いものです。なにしろ千数百年語りつがれてきたわけですから、建物なら国宝級です。

戸田:

そうですね。

有川:

テレビが普及する前だと、東北や鹿児島の子どもは標準語を話すのに苦労してきた。ですから、学校では土地の言葉を禁じ、標準語を練習させた。ところが、どこの家にもテレビは当たり前になって、日本中の子どもが苦もなく標準語を話すようになった。と同時にその土地の言葉を失っていった。言葉を失うということは故郷(ふるさと)を失うのと同じです。故郷というか魂かな。ことに標準語の感嘆詞は貧弱です。感情を適確にいいあらわすことができない。テレビの普及で学校での標準語教育の役割は、とうの昔に終わっている。ですから、反対に学校では積極的にその土地の言葉をしゃべったほうがいいと思います。

戸田:

そうなると楽しいでしょうね。また、そんな方言の絵本を出していただけるとうれしいです。

有川:

おもしろいですよね。

戸田:

有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
有川さんもおっしゃっていました丸山誠司さんの新刊が方言でかかれているんです。めちゃくちゃおもしろいんです。
タイトルは『ノブーナガ』。武将絵本の登場です。


丸山誠司『ノブーナガ』

ガイコクからやってきたルーカス・ブルーノ・アントーニオ
日の本ジャポンで出会ったのは…オダ・ノブーナガ!?
ノブーナガはコテコテの尾張弁で3人に日本語を教えますが…はたして?

日本語になった外来語の単語もたくさんでてくるんですね。子どもたちにもきっと興味をもってもらえると思います。読み聞かせにもおすすめです。
絵本館からの新刊丸山誠司さんの『ノブーナガ』、ぜひ手にとってみてくださいね。
丸山誠司さん、すごくノリノリの尾張弁で読んでくださるそうです。いつかきかせていただきたいなあと、思いました。

(2020.3.10 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
どっちからよんでも -にわとりとわに-
どこか力の抜けた回文と、味わい深い絵が合体して楽しい絵本になりました!
ノブーナガ
丸山誠司・作あっぱれ 武将絵本の登場です!
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