第45回「わくわく、どきどき、はらはら」

戸田:

有川さん、今年もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。
みなさんも「お正月も終わって、いよいよ1年がスタートするか」なんて思っていらっしゃると思うんですけど。

戸田:

そうですね!

有川:

前にもお話したんですが、何年か前の新聞の俳句投稿に「めでたさも 妻やわらかき お正月」というのがありました。

戸田:

はい。

有川:

こんな人は滅多にいないだろうなと思って、友人10数人にきいてみたんですが、全員首を横にふるんです。ところが、同じ歳の仕事関係の人が「うちはそっちです」というんです。

戸田:

(笑)。

有川:

そんな男がいるのかと、たまげてしまいました。

戸田:

(笑)。

有川:

俳句や川柳は日本ならではのものですが、外国にも結構愛好者がいるようですね。

戸田:

ええ、いらっしゃいますね。

有川:

それにしても新聞、雑誌によせられる短歌、俳句、川柳は年間おびただしい数にのぼるでしょうね。日本はすごい、世界に冠たる詩の国です。
俳句は短いフレーズで受け手の想像力を喚起する。「俳諧・諧謔」という言葉を辞書で調べると、この言葉自体「たわいもないことを言って人を笑わせる」という意味があるそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

われわれが子どもの頃から親しんでいる芭蕉の「荒海や 佐渡に横たふ 天の川」や「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」などの俳句は、笑わせるというものではありませんね。

戸田:

笑うというより風情を楽しむという感じでしょうか。趣があって。

有川:

そう、趣ですね。気分を愛でるということでしょうか。
ただ、「古池や 蛙とびこむ 水の音」「秋深き 隣は何をする人ぞ」などとなると、すこし滑稽味が出てきます。
蕪村には、「学問は 尻からぬける ほたる哉」という大好きな句があります。

戸田:

ええ。

有川:

こうなると滑稽味が前面に出てきます。蕪村の句は絵もついています。
小さな句から広大なものが見えたり、すました顔でふざけたことをいいたがる傾向が、日本には昔からあるんだと思います。この蕪村の句には「たわいもないことを言って人を笑わせる」だけでなく「なるほど、そうかも」といった含みも隠されている。こんなところは絵本にもあります。

戸田:

ええ。

有川:

美意識ということでいうと、絵画でも桜が散って川面に花が浮かぶ様子が描かれている絵を「いいなあ」と日本人は思う。ところが欧米には、散った花を愛でるといった気持ちはないそうです。絵のなかで花はいつも咲き誇っている。
ですから、そういった絵はない。ここに日本人特有の美意識があるそうです。

戸田:

そうなんですか。

有川:

東洋を含めていいかどうかわかりませんが、絵でも文でも、俳句でも、日本人と欧米の美意識はずいぶん違っているように感じます。
欧米には遠近法や光と影といったものがある。しかし東洋にはない。遠近法的な考えがなかったから茶碗などの球体に絵をほどこすことができた。どちらが偉いという問題では、もちろんありません。ただただ、ものの見方や感じ方の違いです。

戸田:

絵本にも「お国柄」というのはありますか。

有川:

日本の絵本には、擬態語、擬声語が多い。
たとえば、『もこ もこもこ』『にゅるぺろりん』『ぶきゃぶきゃぶー』など。
「あなたは一体なにを言いたいのですか」というような絵本がたくさんあります(笑)。

戸田:

なるほど(笑)。


内田麟太郎・文/竹内通雅・絵『ぶきゃぶきゃぶー』

有川:

欧米には日本と較べて元々擬態語、擬声語が少ないので、こういった絵本は、欧米にはあまりないそうです。
宮澤賢治など擬態語、擬声語のマジシャンです。欧米では、いい大人が擬態語、擬声語を使うと幼児的とみなされ、さげすまされるそうです。
われわれは、「もこ」とか「にゅー」とか言われると、なんとなくニュアンスがわかる。日本語として、ある種の感じがなにか伝わってきます。

戸田:

ええ。

有川:

それに絵がつきますから1プラス1が2ではなく、3にも4にも広がっていく。そういう自由気ままな風情があります。つまり想像する余地がたくさん残されているんです。それが省略と飛躍の効いた絵本と俳諧の世界が似ている点なのではないでしょうか。

戸田:

確かにそうですね、どんな風に感じるかというのが自由で。

有川:

そういった自由さが絵本から生まれると、うれしいですね。子どもを教え導こうといった考え方は、自由な絵本とは似て非なるものです。大事なのは、子どもが自発的に能動的になれるかどうかということ。絵本でも俳句でも、受けとった人の感じ方が尊重されなければなりません。子どもだといってバカにしてはいけない。子どもも十分感じる力はもっている。子どもたちが自分の「わくわく」「どきどき」「はらはら」を見つけ、自分の心が動いていることを実感する。そこに楽しい人生がみえてくるのではないでしょうか。
その子の人生のスタートで、自由な気分を感じとれる、そんなことに絵本が貢献できたらうれしいですね。
最後に「めでたくも えがお笑顔の お正月」。

戸田:

いいですね、やっぱり笑顔ですね!

有川:

クスっと笑う、そこはかとなく笑う、ほほえむ、大きな声で笑う。笑いもいろいろです。
いろいろな笑いと同じくらいユーモラスで笑える楽しい絵本がたくさんあります。みなさんもぜひ手にとって楽しんでください。

戸田:

今年も笑顔いっぱいでいきたいです。

有川:

そうですね、今年も笑顔でいきましょう。

戸田:

今年もどうぞよろしくお願いいたします。
有川さん、今日もありがとうございました。
絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。

絵本館からまた素敵な新刊が出ました。
まさにタイトルは『でたでたでた』。
りとうよういさんの絵本です。


りとうようい『でたでたでた』

土俵に空いた大きな穴から「でたでたでた」
力士に役者におばけまで!
よっ!まってました

ちょっと変わった縦開きの絵本です。
りとうよういさんのコメント、ご紹介します。

このお話は、どこか人知れぬ山奥で、
夜な夜な繰り広げられる様子で。
ガイコツやらお化けやら出てくるけれど
それは、てんで怖くなくて、
それなら、しばらく覗いて見ても良いかな、と思います

絵がとってもユニークなんですよ。
絵本館からの新刊、りとうよういさんの『でたでたでた』、ぜひ手にとってみてくださいね。
(2020.1.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ぶきゃぶきゃぶー
なにがなんだか分からないけどぶきゃ ぶきゃ ぶー ブタおじさんのバスは はしります
でたでたでた
土俵に空いた大きな穴から「でたでたでた」
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