第44回「とりあえず3冊」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

先日はお誕生日、おめでとうございました。

有川:

ありがとうございます。

戸田:

日曜日でしたから、盛大にお祝いされたのではないですか。

有川:

いえいえ。近くに娘夫婦が子ども4人と住んでいるにも関わらず、家内もみなも誰ひとりとして気づかず。自分から「今日誕生日なんだけど」と言う情けない局面を迎えました(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

娘一家はすぐに焼酎を買いに行き、包んだ紙に6人全員で「長生きしてね」などと書いてくれました。「こんちくしょう」と思いながら、まあそれなりにうれしかったり(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

「誕生日おめでとう」と言われてうれしいのは何歳くらいまででしょうか。「71回目の誕生日おめでとう」と言われても…(笑)。

戸田:

でも、有川さんはとても素敵に歳を重ねてこられた感じがします。

有川:

まだお会いしたこともないのに、そんなこと言って(笑)。

戸田:

いえいえ、書店の方から「とても素敵な方」とお聞きしています(笑)。

有川:

今までの71年間、誰からも「素敵ですね」などと言われたことないですよ(笑)。

戸田:

いろんなところで噂にされていると思います。今度クシャミをした時は、「あ、今ほめられた」と思ってくださいね(笑)。

有川:

わかりました。これからは素直にそう思うように心がけます(笑)。しかし、なんとも実感がともなわないのですが(笑)。

戸田:

それにしても、はやいもので12月になりましたね。

有川:

時間がはやく過ぎるので、イヤになってしまいます。小学生のときの1年はゆっくりだったのに、歳とともに時がはやく過ぎるのは、これ如何にです。

戸田:

本当にはやいですよね。

有川:

はやいと言えば、1年前僕は北海道で地震に遭いましたが、今年は台風15号で千葉は停電が何週間も続きました。北海道の地震の時は、ホテルでたった40時間くらいの停電だったのに、それでも相当こたえました。それが2週間も3週間もの停電というのは、どんなに大変だったかと思います。なにごとも経験しなければわからないものです。

戸田:

そうですね。

有川:

人間どう考えたらいいんでしょうか。経験してみなければわからないことを、絵本や本を読んでわかった気になり、頭だけが肥大化してしまう。本にはそういった危険性もあります。といって、絵本や本を読まないほうがいいという話ではありません。どんどん絵本や本は読んでください。ただ、主観にはしりすぎる絵本や子どもの本が多いのが気になります。

戸田:

そうですか。

有川:

主観と客観がゴッチャになると頭の中は混乱しますでしょう。
ものごとを少し距離をおいてみる。そのクセを身につけるのは、だれしもそう簡単なことではありません。しかし人生にとってはとても大事なことだと思います。
主観的にみている自分と客観的にみている自分、それを「いまの考えは自分の主観にすぎたかも、もう少し客観的に考え直したほうがいいかな」と自覚できる力。もう1人の自分が、いま現在の自分をみつめる力。
小さい時に、こんな考え方にふれるのはとても貴重な経験です。
この主観と客観がゴッチャになる危機から上手にすりぬける技を身につける、そんな得難い絵本があります。とりあえず3冊。

五味太郎『ぼくはぞうだ』
谷川俊太郎・文 / 長新太・絵『わたし』
高木仁三郎・文 / 片山健・絵『ぼくからみると』

ものごとを客観視するとは、こういうことかという具体的な見本を知ることができます。3作とも名作です。ぜひ手にとってみてください。


五味太郎『ぼくはぞうだ』

戸田:

子どもたちには物より思い出が大切だと、よく言われていた気がするんです。だから、読書を含めて何かを経験するということは、とても大事なことだと思いますね。

有川:

経験する。そこでは実感することができます。実感がベースになってものごとの理解とか、筋道だったものの考えが生まれるのです。実感をともなわない知識は、子どもにとってはあまり意味がないでしょう。昔の子どもにあって、今の子どもに不足しているのが、その土地での子どもの集まりです。それも年齢の幅が広い集まり。僕なども学校が終われば夕食までヒマでしたから、友だちや近所のお兄さんたちとただただ遊ぶ。そんな毎日でした。そんななかで親戚や近所のお兄さんやお姉さんが見本になっていた。もちろん、反面教師になることもある。人をみる目も自然に養われたのではないでしょうか。

戸田:

そうですね。有川さんのお嬢さんのところは、お子さんが4人ですか。

有川:

ええ、4人です。

戸田:

お孫さんたち、どうですか。

有川:

10年近く前、近所の小さな公園で中学生と小学生5〜6人がいつもサッカーをやっていた。ゴールは公園の鉄棒です。それで見ていた娘がその子たちに、幼稚園児の自分の子ども2人をまぜてほしいと頼んだ。すると快く受けいれてくれたそうです。それから2〜3年、毎日のように公園でお兄さんたちに相手をしてもらった。下の孫などサッカーボールの強打で顔面血だらけ、お兄さんたちがあわてて家に連れてきてくれたり、やさしいんです。この経験が2人の孫にどれ程のものをもたらしたか計り知れません。
その孫たちも、上は中学3年、2番目は小学6年、3番目は小学3年、4番目は小学1年です。まだ「こんちくしょう」という感じはないですね(笑)。犬と一緒でみんな可愛いです。(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

犬でも孫でも、なんでもいるだけで「可愛い」と思う対象があるのはありがたいことです。

戸田:

ほんとですね。

有川:

日常生活のなかで、そう思える瞬間があるというのは、存外楽しいものだと思います。

戸田:

だって、笑顔になれますものね。

有川:

まったくその通りです。

戸田:

笑顔って、いいですね。

有川:

エレベーターなどで一緒になった赤ちゃんが、こっちをみてニコっとしてくれたら、それだけでうれしくなってしまいますよ。

戸田:

そんな子どもたちの未来に夢を託すような絵本を作るお仕事をしている有川さんだから、いつまでもお若いんだと思いますよ。
今年もたくさんのお話を聞かせていただきました。
来年も楽しみにしていますので、ますますよろしくお願いいたします。

有川:

はい、こちらこそよろしく。

戸田:

有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。前回は樹木希林さんの『一切なりゆき』のお話をしてくださいました。今年一番売れた本なんですよね。
有川さんが「一切なりゆき」と思えば未来は開けるんじゃないか、そんなことも言ってくださっていました。
人生の先輩である有川さんから、いろんなことを気づかせていただき、教えていただいています。
また来年もどんなお話を聞かせていただけるか、とっても楽しみにしています。
(2019.12.10 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
ぼくはぞうだ
客観とはなにか。さまざまな角度からものを見るのに適した格好の絵本。
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