第43回「絵本も人生もなりゆきがいい」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

今、目の前に週刊文春があるんです。

戸田:

ええ。

有川:

樹木希林さんの『一切なりゆき』100万部突破とあります。絵本も、この「一切なりゆき」にちょっと似ているところがありますね。「一切」は少し言い過ぎですが、問題は「なりゆき」です。
作者は作品にとりかかるとき、勿論おおまかなプランは持っています。しかし、描きはじめると新たな発見がでてくるし、少し違う方向に動きだす事もあるでしょう。そのとき頭に浮かぶひらめき、そのひらめきが作者はたまらないのではないでしょうか。それをクリエイティブな状態というのだと思います。

戸田:

そうなんですね。

有川:

作品だけでなく、人生も予定された通りの道を歩んでいくという考えもある。設計図のように決められた人生を歩む生き方。たとえば幼少のころからしっかりした成績をとって、偏差値の高い大学に行き、間違いのない会社に入る。決められた通りの人生、安定第一の生涯、それが好きな人には、いいかもしれませんが。

戸田:

ええ。

有川:

ただ、それがおもしろいのか、おもしろくないのか。
反対に「なりゆき」で行く人生というものもある。気ままな一人旅という趣でしょうか。個人個人が少しくらい失敗しながらでも、「なりゆき」でやっていけるのが自由で豊かな社会ではないでしょうか。一方、設計図の指示どおり、予定どおりに進む人生、人はみなそれぞれ好き嫌いがあります。しかし封建時代のような決められた人生を歩むのは、どうでしょう、僕はあまり興味がわきませんね。
『一切なりゆき』の樹木希林さんの顔をみていたら、学生時代、FM東京でアルバイトしていたときのことを思い出しました。
いつもGパンでやってくる音楽評論家の中村とうようさんが、ある日礼服でいらした。「今日はどうしたのですか」と聞いたら「今日は内田裕也の結婚式なんだよ。これから行くんだ」と。

戸田:

まあ!

有川:

それが樹木希林さんとの結婚式だったんです。

戸田:

そうだったんですか。内田裕也さんとなんとも不思議なご夫婦でしたけど、裕也さんのことをわかっているのは希林さんだけだったのかもしれないなあ、なんて思います。

有川:

なんともすごい夫婦ですね。樹木希林さん以上に内田裕也さんこそ、人生「一切なりゆき」でやってきたのではないでしょうか。

戸田:

そうですね。

有川:

さきほど「なりゆき」は絵本に似ていると言いましたが、「なりゆき」の反対は予定調和です。次の展開が分からないのが優れた絵本の大きな要素ではないかと思うのに、「この展開なら次はこうなるだろう」とすぐわかる絵本、この種の予定調和絵本が実は多いのです。
いい人をやっていたら良い結果に恵まれる。そんな考え方に慣れ親しんでしまうと、考え方が固定化し、人をみる目が濁るのではないのでしょうか。
「なりゆき」もあるな、といった気持でいたほうが型にはまらず、人をみる目や、ものをみる目を鍛えるのに有益なのではと思います。
「おもしろい絵本」あるいは「奇想天外な絵本」のなかにこそ、「なりゆき」の気配があるような気がします。
ちょっと偉そうですが「人生には、ちょっとはずれたり予定通りにいかないことがよくあります。でも、あわてふためくことはないよ」と、若い人に言ってあげたいなという気がします。

戸田:

本当にそうですね。

有川:

ところで子どもと年寄りは、あることが似ています。

戸田:

なんでしょう。

有川:

本来子どもと年寄りは、予定にしばられないのが原則です(笑)。予定だらけの子どもというのは子どもではないでしょう。行きあたりばったりで時間を過ごすのが子どもです。そんななかで想いをめぐらしていくことを「子どもの成長」というのではないでしょうか。
ただ、子どもと年寄りには決定的な違いがあります。子どもには未来があるけれど、年寄りには未来がない(笑)。

戸田:

あら、まだ未来がありますよ。人生100年時代ですから(笑)。

有川:

人生「一切なりゆき」と思えば、年寄りにも未来が生まれてくるかな(笑)。

戸田:

たしかにそうですよ!
有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ、ありがとうございました。
最後になりますが、「なりゆき」にびくびくしないで泰然というか、ゆったりとやりすごしていく主人公、そんな絵本が絵本館にはいくつもあります。
『海は広いね、おじいちゃん』『あそぼうよセイウチ』『いいから いいから』『おとうさんのえほん』『おじさん あそびましょ』『ゴリララくんのしちょうさん』などなど、「なりゆき」をゆったりと面白がりながら過ごす主人公を手にとってお楽しみください。

戸田:

また来月もよろしくお願いいたします。
絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
(2019.11.12 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
海は広いね、おじいちゃん
ぜひ、おじいちゃんといっしょに読んでください。
あそぼうよセイウチ
佐々木マキ・作セイウチとおんなの子の表情がのびのびしていてとてもいいんです。
いいからいいから
長谷川義史・作これはもう一家に一冊、必読書です。
おとうさんのえほん
高畠純・作いろんな動物のおとうさんが登場!
おじさん あそびましょ
長新太・作スローフードならぬ、スローブック。
ゴリララくんのしちょうさん
きむらよしお・作クジラはなにもこたえません。
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