- 戸田:
- 有川さん、今日もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 戸田:
- 今日はどんなお話ですか。
- 有川:
- 好奇心はどうしたら生まれるのか。
考えてみると、科学に興味や関心をもつ人は、わからないことを嫌がらずにおもしろがっているんだと思います。 - 戸田:
- ええ。
- 有川:
- ところが子どもの本のことを考えてみると、逆になっている気がするんです。子どもはわからないことがあると不安になるから、不安になる前に説明してあげよう、と考えてしまう。
この考えには二つ問題があります。
ひとつは、本当に子どもは分からないことに出会うと不安になるのか、ということ。以前も言いましたが、子どもは赤ちゃんの時から分からないことだらけのなかで過ごしているわけですから、「分からないと不安になる」は勘違いでしょう。近くに頼りになる親や大人がいれば不安になりません。分からないと不安になるのは、大人です。
二つめは、何事も早手回しに説明すると興味や関心が、だんだんとしぼんでしまうのではないかということ。好奇心が芽生えずに育ってしまうことになるのではないでしょうか。説明的な絵本を読んでもらえばもらうほど、好奇心と縁遠くなる。学校の成績はそこそこなのに科学的、客観的な考え方にいたらない。これは大きな問題です。
我々の業界は、学校の先生や幼稚園、保育園の先生たちが買ってくださっている割合が高い。その先生たちは子どもを学年別、年齢別にとらえがちです。すると出版の方も子どもの年齢に合った絵本や本を作らねばと思ってしまう。年齢別というのはたやすいのですが、現実にはそんな絵本を作れるわけがありません。子どもも人、もちろん人は生まれたそばからそれぞれです。年齢でひと括りにするのはいくらなんでも無理があります。 - 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- この間も、若い絵描きさんがとてもおもしろい動物の絵を描くので、楽しみにしていたんです。ところが出来てきた原稿をみたら、なにかひとつピンとこない。
最初にみせてもらった動物の絵は、他にみることがないその人ならではの絵になっていた。それがすごくおもしろかった。それなのに子どもの年齢のことが気になって牛は牛らしく、ライオンはライオンらしく描かなければいけないと思ったのかなあ。少しあたりまえになっていた。その人の個性が十分にでていなかった。 - 戸田:
- まあ。
- 有川:
- 大人がみるとよくわからないナンセンス系の絵本を、子どもはおもしろがって喜ぶことがよくあります。そのことは子どもにとって、ある意味チャンスです。そうなったら「うちの子、先々楽しみだなあ」と思っていい。
- 戸田:
- (笑)。
- 有川:
- 絵本には「音楽に近い絵本」と「文学に近い絵本」の二つがある。
よく分からないナンセンス系の絵本は、「音楽に近い絵本」だと思います。なにか子どもには生まれもったリズムやメロディが流れていて、その「音楽に近い絵本」がもつ文のリズムだったり、絵の展開だったり、それらと同調するのではないでしょうか。 - 戸田:
- なるほど。
- 有川:
- 説明的な文や絵がついた絵本は、「文学に近い絵本」。絵本の文を担当している人は、もともと文学出の人が多い。詩人は別です。分からないところがあると説明的になるのはあたりまえです。それがクセというか、不断の修練、鍛錬のたまものでもあります。そのうえ絵もさし絵で説明的。文章が情景や風景を見事に叙してあるのに、そのうえ絵で説明する。これでは想像する局面をむかえることは、子どもにとってむつかしいのではないでしょうか。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- 子どもが科学的な心をもつには、「わからない」と子どもが思ったら、その「わからない」に対して大人はゆっくりした気持ちでのぞんでほしいですね。すこしジラしてもいいから、すぐに答えを出してはいけません。そんな子どもと大人の関係がいいと思います。
- 戸田:
- そうですね。
- 有川:
- 科学者だけでなく冒険家も含めて、未だ到達できない未知なことに対して人は、ことに若いうちは意欲的です。
- 戸田:
- ええ。
- 有川:
- ですから、子どもが「知らないことなのに、なんだか気になる」と思ったら、頭が動きだしたわけですから、よろこんだほうがいいでしょう。
- 戸田:
- 大人になると、ついつい守りに入ってしまいますからね。自分がわからないものって、構えてしまったりするんですよね。
- 有川:
- そうですね。そこが子どもと大人の違いです。本当におもしろいものに出会えたら、そこにたちどまってじっくり対応してほしい。
- 戸田:
- 本当にそうですね、今からでも。
- 有川:
- もちろん、おそくはない。
「おもしろい」というのは、いわば人生の灯台のようなものです。自分がこれから行く先を照らしてくれている灯台のようなものだと考えていい。 - 戸田:
- ええ。
- 有川:
- 絵本でもなんでも夢中になる。おもしろいと思う。
そういったものに出会えたら、おかあさんもいっしょに楽しんでみるのがいいと思います。 - 戸田:
- そうですよね。
ところで、有川さんのところにおもしろい絵を持ってきた絵描きさんは、その後どうされたんですか。 - 有川:
- 今、絵本を進めています。
- 戸田:
- よかった!では、出来上がりが楽しみですね。
- 有川:
- ええ、そうなんです。おもしろい絵本になりそうで楽しみです。
- 戸田:
- 有川さん、今日もありがとうございました。また来月もよろしくお願いいたします。
- 有川:
- はい。こちらこそよろしくお願いします。
- 戸田:
- 絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
(2019.08.13 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。