第39回「それが豊かな社会」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

こちらこそ、よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

戸田さんは、若かりしき頃、どんな職業につきたいと思ったのですか。

戸田:

子どもの頃から声優になりたかったんです。『アタックNo.1』を小学校の頃に観ていて、小鳩くるみさんに憧れていたんです(笑)。

有川:

すごい。初志貫徹ですね(笑)。

戸田:

有川さんは、どうだったんですか。

有川:

高校のときに、友人が「将来なりたい仕事をそれぞれ書いて見せ合おう」と言うんです。

戸田:

ええ。

有川:

僕が書いたのは、古本屋とか古物商、陶磁器屋とか、そういった職業ばかり。いずれもそのときの自分から見える範囲内の職業だけです。しぶいですね。サラリーマンという発想は浮かばなかった。サラリーマンは、お金のほうは安定するかもしれませんが、時間の自由がきかないような気がしたのかなあ。

戸田:

確かにね。

有川:

絵本館を始めるまで、世の中にデザインをする人がこんなにたくさんいるとは思いませんでした。

戸田:

そんなにデザインの仕事があるんですね。

有川:

自然物以外のありとあらゆるものが、すべてデザインされています。思いのほか、デザインの仕事はたっぷりあります。美術の中でも「絵を描く」ことだけではなく、色と色の合わせかた、切りとりかたなど、美術のなかでもいろんなデザインのセンスがとわれています。

戸田:

はい。

有川:

だから「いろんな仕事がたくさんある」というのは、豊かな社会ということではないですか。
僕も大学生の頃、FM局で下働きをしていました。番組の構成をする人、またスタジオミュージシャン、曲をアレンジする人、「放送局でもいろんな職業があるんだなあ」と、そのとき思いました。その場その場を経験してみないと分からないことがあります。

戸田:

そうですねえ。

有川:

給与所得者は昭和10年、20年、30年とシンクロするように、10年代は10%台、20年代は20%台のパーセンテージで伸びてきた。昭和60年代は60%、今は昭和でいえば90年代、ですから給与所得者が90%前後だそうです。そう考えると、昔はほとんどの大人が個人の力でなんとかしのいでいたんですね。
反対に昭和20年代だと7〜8割の人が個人でやっていたわけです。
子どものときは、お金と時間が自分の裁量で自由になるのが大人だと思っていました。ところがサラリーマンは、ある程度のお金はなんとかなるけど、時間が自分の自由にならない。社会全体がだんだん息苦しくなってくるわけです。大人が生き生きと生活していないと、社会は輝きをもてなくなるでしょう。だから、その土地その土地でおこなわれる祭りや行事は大切です。自由というものをどう考えるか、です。

戸田:

ええ。社会を変えたいとか、仕組みを変えたいとか、変えたいことはたくさんあるんですが、変わらないですよね。だから自分が変わらなきゃダメですね。

有川:

そういうことです。昔、ある作家に言われたんです。みんなが「あんな満員電車には乗りたくない」と言って乗らなくなったら、企業経営者や為政者は、満員電車というあり方を根本的に考え直さなければならなくなる。でも、みんな我慢に我慢を重ねて、今に至っていると。

戸田:

ええ。

有川:

そういった我慢のトレーニングを受ける場所が学校になっている。「こんなのは、嫌だ」と言わないでやってきた。学校に行きたくなくても「行きなさい」と言われるから、いやいや行く。でも、嫌だったら行かなくてもいいんです。多くの子どもたちが学校へ行かなくなったら、大人たちも考え直しますよ。大人になると、夫婦だって嫌だったらやめる人がたくさんいるぐらいですから。まして学校に行かないなど、なんでもありません(笑)。

戸田:

夫婦はまあ、我慢も必要だと思います(笑)。

有川:

(笑)。まさか、夫婦も学校も我慢を一切しなくていいと言っているんではないです(笑)。

戸田:

ええ(笑)。

有川:

ただ、体も心も壊れるところまで我慢することはないんじゃないでしょうか。絵本にしても何にしても自分の好き嫌いをはっきり言える人に子どものころからなってほしい。また社会もそういった自由な雰囲気や環境がととのってくれるといいのですが。

戸田:

それはそうですよね、自分の人生ですからね。たった一度の。

有川:

そういうことです。

戸田:

あらためて子どもたちの夢とか、きいてみたくなりますね。有川さんのお孫さんたちは、どんなことを言っていますか。

有川:

中学3年の男の子は「先に希望はない」などと言っています。ある日、僕が「どうしたんだよ、鬱陶しい顔をして」と言ったら「ジイジ、悪いけど今反抗期なんだ」と言うので笑いました(笑)。小学校6年の男の子は「サッカー選手」。本は読みません。ただ上の二人は僕と同じタイガースファン、勝ったときはもりあがっています。小学校3年の女の子は「作家になる」と。これはもう、あきれるほど本を読んでます。

戸田:

いいですねえ。

有川:

しかし、人生バランスがとても大事でしょう。ピアノを弾いたり、絵を描いたり何か手を使うことも必要だと思うんです。頭デッカチにならないか心配でもあります。小学校1年の男の子は「相撲取りになる」と言ったり「ラグビー選手になる」と言ったり。なんのことはありません。固い頭が自慢で頭突きが苦にならないそうです。みんなそれぞれ、まさしくそれぞれです(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

「へえ、そうなんだねー」という気持ちで、周りの大人が笑いながらみてあげられるといいですね。

戸田:

そうですね。お孫さんたちが元気で活躍することを期待しています。今日もありがとうございました。

有川:

ありがとうございました。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。絵本館からの新刊をご紹介させていただきます。
『どっちからよんでも』文 本村亜美さん、絵 高畠純さん。以前有川さんからもお話がありました、あの回文の絵本が出来ましたよ。
どっちから読んでも同じことば!
どこか力の抜けた回文と、味わい深い絵が合体して楽しい絵本になりました。
一見なんでもない回文に絵がつくと、不思議な味わいが生まれます。これこそが絵本、絵の力ですね。
小学校の国語の授業でも回文つくりが行われています。


本村亜美・文/高畠純・絵『どっちからよんでも -にわとりとわに-』

本村亜美さんからのメッセージです。

回文だけでは「へ〜、なるほど」っと思うだけですが、絵がつくことでこんなにも笑えるものになるなんて!
驚きの一冊です。ぜひ指でたどって、反対からも読んでほしいと思います。
いつもだれかに教えたくなる自然で簡単な回文を考えてます。
「ななばんバナナ」をスーパーで思いついた時には、笑いをこらえるのが必死でした。きっとまだまだあると思うので回文活動を続けたいです。

そして、高畠純さんからのメッセージです。

一見なんのへんてつもない文、「あなだなあ」、「いろしろい」、「むすこ どこすむ」など、普通の会話。これが回文なんて、あまりにも自然で、亜美さんのそれぞれの回文を見たとたん、絵を付けたい、絵本にしたいと即座に思いました。
絵本としてググッとおもしろくなるぞ、と直感。
この絵本を見る人も「アハハ、そうだよねえ」の感じで受け取ってもらうと嬉しい。亜美さんの回文はあくまでも自然、日常。
すっきりとした言葉のセンスが、あ〜、いいなあ。楽しんで絵を描きましたよ。
ぜひ、おもしろがってください。きっと読後は、回文を作ってみたい心境に。

文 本村亜美さん、絵 高畠純さん『どっちからよんでも』。
絵本館の新刊です。HPもご覧になってください。
(2019.7.9 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
どっちからよんでも -にわとりとわに-
どこか力の抜けた回文と、味わい深い絵が合体して楽しい絵本になりました!
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