第29回「絵本館創立日は、こうして決めた」

戸田:

有川さん、今日もよろしくお願いいたします。

有川:

よろしくお願いします。

戸田:

今日はどんなお話ですか。

有川:

今年2018年の7月27日は絵本館の創立満40年になります。

戸田:

おめでとうございます。

有川:

ありがとうございます。何度か倒産の危機がありましたから、よくもったもんだと思っています(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

なぜ創立記念日が7月27日なのかというと、40年前のその日、はじめて五味太郎さんの家に行ったんです。
その日が絵本について目を開く契機になりました。それで創立を7月27日としたんです。
僕が29歳、五味さんは32歳。絵本のみならず、いろいろなものの見方を教わりました。実に得難い経験の連続でした。すごい人に会えてラッキーだったとしか言いようがありません。絵本館のマークも五味太郎作です。

戸田:

そうだったんですか!

有川:

五味さんが40周年記念として、『行ったり来たり大通り』という絵本を描いてくれました。絵本館初の合紙絵本です。冒頭で「この絵本、とくにストーリーないんだってさ」と、子どもが絵本のなかで言っている。また違う男の子におかあさんが「おもちゃ、どうしたの?」と聞くと「なくなった」って。では、なくなったおもちゃはどこにあるのか?


五味太郎『行ったり来たり大通り』

車椅子のおじいさん、その車を押している女性に「その花、どうしたの?」と聞かれて、おじいさんは「気にするな」と答えている。探してみると、実はおじいさん、最初のほうのページで花壇の花をとってしまっているんです。
あっちのページ、こっちのページを行ったり来たりしながらいろんなものを探す。絵をみるだけでなく、絵を自分なりに解釈して探すという面白さ。それも絵本の醍醐味の一つです。
ついついすべてのことを言葉で理解して説明できるというふうに思いがちです。でもよく考えてみると、すべてを言葉で理解し説明できるわけがない。もし、なんでもかんでもすぐに理解できていたら、友人関係や夫婦関係で揉める人なんていないでしょう。言葉にたよれない場面は多々ある(笑)。

戸田:

一番難しいかもしれませんからね(笑)。

有川:

子どもの頃から何ごとも言葉によって「理解した、理解できた」と思いがちです。学校はそういうトレーニングをする所になっている。でも考えてみると、理解できないことがいくらもある。だったら、いっそそれを楽しめる人になるというのはどうでしょう。気持ちの持ち方次第で心の余裕が生まれてきます。

戸田:

ええ。

有川:

言葉だけでなく絵でものを考える。そういうことが出来たら、もうちょっと窮屈にならず、視界が広がってくることにもなる。

戸田:

そうですね。

有川:

街を歩いている人を見て「あの人、こわそうだ、少し避けて通ろう」とか「まあ、素敵なファッション、なんともいえない服の取り合わせね」とか。言葉にたよらず、風景、情景、人の表情などを見ながら、毎日のように人間は考え判断している。いろいろなものを見て考えている。そうしたものの中に楽しみや喜びを感じとれれば、人生楽しくなります。そう考えると絵本の役割はもっともっと広がっていくのではないかと思います。

戸田:

こうして有川さんのお話を伺っていると、絵本の可能性は無限大ですね。

有川:

そう思います。絵でものごとを表現してみると違ったものがみえてくるなあと感じとってもらえたら、うれしいですね。たとえば同じ言葉でも、まったく違った絵があると状況はガラッと変わる。たとえば『おまたせしました2』という絵本がある。どのページも言葉は「おまたせしました」だけ。読者は絵で状況を読みとる。絵本はこんなすごい表現もやってのける。

戸田:

そうですね。私、五味太郎さんの絵がとても好きなんです。私は倉敷に住んでいますが、岡山のきびだんごの包装紙も五味太郎さんのイラストですよね。
きびだんご
廣榮堂(こうえいどう)は、岡山名物のきびだんごと共に150年。むかし吉備団子、元祖きびだんごをはじめとして、お客様に安心のお菓子をお届けする菓子メーカーです。
有川:

五味さんのイラストになって、売り上げが何倍にもなったそうです。

戸田:

絶対そうだと思います。

有川:

絵本館も五味さんに頼んで包装紙を作っています。でも不思議なことに絵本も五味さん、包装紙も五味さんなのに、きびだんごのようには売れませんね(笑)。

戸田:

(笑)。

有川:

おだんごの絵本を描いてもらおうかな(笑)。

戸田:

それ、楽しそう(笑)。


五味太郎デザインの絵本館包装紙

戸田:

ぜひ、五味太郎さんの新刊『行ったり来たり大通り』、お手にとっていただきたいです。

有川:

プレゼントとしてそちらに3冊くらいお送りしましょう。

戸田:

え、本当ですか!すごく嬉しいです。ありがとうございます!
有川さん、今日もありがとうございました。

有川:

こちらこそ。

戸田:

絵本館代表の有川裕俊さんにお話をお伺いしました。
絵本館さん創立40周年、改めておめでとうございます。
五味太郎さんからもメッセージが届いています。

行ったり来たりはいつものことですが、それが大通りになるとは思いませんでした。
大通りではいろんなことが時空を超えて起こっているのですが、そのひとつひとつにスポットを当てれば、それだけでまた一冊の絵本になってしまいそうで、もうキリがありません。
うん、キリなく行ったり来たりしている間に、絵本館は40周年を迎えました。キリなくめでたいことです。
絵本館のスタッフみんなにお祝いを。

(2018.8.14 放送)
2016年4月からエフエムふくやま「ブック・アンソロジー」に月1回、第2火曜日に出演しております。
インタビュアーは、パーソナリティの戸田雅恵さん。
番組の内容を定期的に掲載しています。なお、ラジオインタビューですので、その時はじめて聴く人もいます。同じような話が2度3度出てくることがあります。ご了承ください。
行ったり来たり大通り
五味太郎・作ページをめくって行ったり来たり こんな絵本はじめて!
おまたせしました・2
五味太郎・作「おまたせしました」というひとつの言葉がこんなにいろんな顔をもっている。
絵本館のスタート
五味さんを福生に訪ねた日を創立記念日にしようかと思ってるんだけどね。
タイトルとURLをコピーしました