編集長の直球コラム

「課題図書」が本嫌いをつくる

出版業界紙「新文化」8月29日号に寄稿した文章をご紹介します。


「課題図書」が本嫌いをつくる
ー子どもたちは楽しんで本を読んでいるのか?ー

 
今年はじめに、この16年で業界全体で約9200億円の売上げが落ち込んだと報じられた。1996年2兆6564億円の売上げが2012年には1兆7398億円。その下げ幅は34.5%だ。これを平均化すると年2.61%の落ち込みとなる。
 
一方、毎日新聞社が毎年行っている第58回「学校読書調査」(2012年10月公表)によると、小学生、中学生の読書量が増えたと業界は喜んでいる。小学生が読む本は、月に10.5冊。この数値はここ数年上がっている。
 
子どもたちは本当に本を楽しんで手にとっているのだろうか。
 
業界では売上げがダウンし続けてきた。それにしても、どうしてみんなびっくりしなかったのか。それは少しずつ落ちてきたからで、これが5年で20~30%落ちたら、大騒ぎになっていたはずだ。
 
例えで言えば"茹で蛙"。蛙が入っている水の温度をちょっとずつ上げる。すると蛙は逃げることなくいつのまにか茹で蛙になってしまう。我われの業界もそれと同じ。真っ赤な茹で蛙になってしまっているのに気付いていない。この流れをとめる抜本的な対策を講じてこなかった。
 
では、抜本的な対策とはなにか。というとすぐに「今までにない新しい企画を」と、なりがちだ。それも大いに結構だが、それよりまず止めなくてはいけないことがいくつかあるのではないか。
 
我われの絵本や児童書分野で止めなければならないのは課題図書。本を読んで感想文を書かせるなんて、まったくどうかしている。そんなにやらせたければ、まずは学校の先生たちがやってみるといい。先生たちが、毎月本を読んで感想文を書く。月始めに読書感想文を校長に提出。先生たちはどんな気持ちで月末を迎えることになるか。
 
課題図書が今までどれほどの子どもたちを本嫌いにさせてきただろう。文科省の方針とはいえ、先生たちも考えたらすぐわかるはずだ。
 
「てにをは」もまだわかっていない小学生1年生に「読んだ本の感想を記せ」とは、一体どういうことなのか。花菱アチャコさんだったら、「無茶苦茶でごじゃりますがな」と言うだろう。
 
養老孟司さんは「読書感想文は一行でいい。面白かったか、あるいは面白くなかったか。それ以上聞くのは下品であろう」と書いている。道理で日本人の下品力がアップするわけだ。強制されて本好きになる人はいない。


 
ーお母さんたちに伝えるー
 
課題図書が始まって今年で59年。対象の子どもたちは過去59年間で1億人を超す。その人たちの2割でも3割でも、本嫌いをまぬがれ本好きになっていたら。もし、その人たちが月3000円~4000円、本や雑誌を購入したら。掛け算はみなさんご自身でやってください。それが約60年、とんでもない金額になる。
書店の皆さんだって、感想文を書かされたら嫌でしょう。それを個々に話すと「そうだよね」と言う。
 
では、どうしたらよいか。文科省や学校がそれを改めるわけはない。我われ業界で『立場上言えませんが』という冊子をつくったらどうだろう。お母さんたちへ「こうすれば本嫌いになる」という事例集を示す。1部10円の制作費として業界全体で100万部作っても1000万円。各社で集めれば1000万円ほど、どうということもないのではないか。
 
例えば、図書館で同じ絵本ばかり借りる子がいる。その子どもに向かって、お母さんが「いい加減にしなさい。いつも同じ絵本を借りて、今日は違う絵本を借りなさい」と言う。司書は「そんなに好きならば買ってあげればいいのに」と思う。でも立場上言えない。
 
作家で書誌学者の林望さんは、図書館で借りた本が気に入ったら、買うようにしていると書いていた。「自分の気に入った本が並んでいる本棚。それは精神のアルバムだ」と言っている。
 
我われの業界はどの業界よりも企画力が問われている。ところが「新しいことをやるぞ」という気概が満ちていない。残念だ。では、そのために何をしたらよいか。それは新しいことを思いついた人をきちんと称えること。「そのアイデアを最初に言い出した人は誰だ」ということ。
 
光文社の古典新訳や小学館の「サライ」のような企画を最初に言い出した人は誰なのか。その思いつきを大事にする。
 
編集企画だけでなく、営業企画も同じだ。組織を評価するのではなくて、もっと個人を、最初に思いついた人を顕彰する。そういうことが当たり前になれば、「私もこんなことを思いついた」という人がどんどんでてくるのではないか。そして、賞を作ってもいい。メディアもその賞を取り上げる。すると、我われ業界が今まで以上に注目を集めるのではないか。
 
 
ー絵本棚をカテゴリー別にー

2013東京国際ブックフェアで提案したカテゴリー別棚
(2013東京国際ブックフェアで提案したカテゴリー別棚)
 
絵本の業界のことでいえば、現在、書店の絵本の棚は出版社別となっていることが多い。それを「お客さんにとってはほとんど意味はない」と、みんな言う。書店も、取次も、出版社も皆さん言う。
 
そこで今、多くの出版社と書店に「カテゴリ―別棚つくり」を提案している。しかし、カテゴリー別に絵本を並べる大きな障害になっていたのが補充問題。どの棚に入れるか分からなかった。
 
そこで、スリップのボウズにカテゴリ―を印字する。たとえば「ユーモア」「きょうりゅう」「たべもの」「のりもの」「おばけ」「うんち」などと印刷されていれば書店の担当者も簡単に棚に入れることができる。
 
今は6つのカテゴリーを考えている。それらのカテゴリーを平積みや面出しの企画と連動させる。「先日、おばけフェアで絵本を買ったら、孫がとても喜んだ。また買ってあげよう」と来店する。ところが、フェアは終わっていて、平積みは片付けられてしまっている。しかし、カテゴリー別棚と連動した平積みフェアなら、棚の絵本がすぐに見つかる。
 
 
ー「面白い」を中心に考えるー
 
最後に河合隼雄さんの言葉を紹介したい。「面白いから次の本を読みたくなる」。この思いは大人でも子どもでも同じ。『きんぎょがにげた』(福音館書店)を面白いと言う子どもがいたら、次も五味太郎さんの絵本を読んであげる。これが得策。この方法は本好きな大人なら誰でもやっていること。
 
例えば、『きんぎょがにげた』のそばに、『たべたのだあれ』『かくしたのだあれ』(文化出版局)を並べ、「この絵本が面白かった人へ。こちらの絵本もおすすめですよ」と案内する。なによりも「面白い」がキーワードである。
 
選択するという事は知的行為。「どの本にしようか」と選択するなかで自分の好みも見えてくる。選ぶことがたのしくなる棚であれば「また、この書店に来よう」とリピーターも増えていく。
 
"本好きな人"とは、"本選びの楽しさを知っている人"のこと。そんな子どもたちが増えるようにと、このカテゴリー別棚を企画した。
 
子どもたちがこの棚から絵本と出会い、自分の趣味や好みを発見してくれたら、こんなうれしいことはない。そしてそれは、今後の出版界にとって朗報となるのではないだろうか。
 
 
絵本館代表 有川裕俊

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